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公開セミナー2019「太平洋島嶼国の地域秩序の変容と日本の役割」

公開セミナー2019

「太平洋島嶼国の地域秩序の変容と日本の役割」

 2019年1月26日(土)、当研究所は公益財団法人りそなアジア・オセアニア財団の助成、太平洋諸島学会の後援により、全国町村会館(東京都千代田区永田町)においてRIPS公開セミナー2019「太平洋島嶼国の地域秩序の変容と日本の役割」を開催しました。
 

 

 本セミナーでは、開演に先立ち、外務省アジア大洋州局参事官 安藤俊英氏からご挨拶頂きました。安藤氏は、「日本が進めている『自由で開かれたインド太平洋』の実現とって太平洋島嶼国は大変重要な地域であり、外務省として島嶼国外交を一層強化している。また、今回のセミナーでの議論が日本と太平洋島嶼国の関係強化につながることを期待している」と挨拶しました。

 次に小林泉氏(太平洋諸島学会会長/大阪学院大学教授)より、セミナーのタイトルと同じテーマで基調講演を行いました。小林氏は、「2000年以降、環境問題や安全保障問題が重要事項となり太平洋島嶼国地域が国際社会に注目されるようになった。その結果、従来から関与してきた米国、旧宗主国である英連邦諸国だけでなく、新たに中国、ロシアなど様々な国家がこの地域に関与するようになった。その中で島嶼国自身も力を付けて、自ら考えて行動するようになった。このような急激な変化の中で日本は対島嶼国政策を見直す時期にきている」と主張しました。

 

 第1部パネルディスカッション「太平洋島嶼国の地域秩序の変容」では、畝川憲之氏(近畿大学教授)の司会の下、塩澤英之氏(笹川平和財団主任研究員)、サイモン・ピーター・バハウ氏(富山大学教授)がプレゼンテーションを行ないました。

 塩澤氏は、実務家の視点から太平洋島嶼国の多層的な枠組と中国の島嶼国への外交政策を中心に説明し、「この地域で影響力を拡大するために中国は、国連における台湾承認国の数を減らし、太平洋島嶼国における経済拠点を確保し、民間部門を中心とした支援で地域での存在感を高めている。太平洋島嶼国地域は、地域の枠組みが多層的で大変複雑であり、伝統的な安全保障だけでなく環境問題や人間の安全保障といった非伝統的安全保障の側面からも考察することが重要である」と主張しました。

 

 

 パプア・ニューギニア出身者のバハウ氏は、この地域の専門家の視点から島嶼国への支援を中心に発言し、「島嶼国の国々は、米国や中国などの『大国が進出して、植民地時代に戻るのか?』という懸念があり、大国の関与・援助が島嶼国にとって真に自国のためになるのか見極めようとしている。その中で中国の援助は、これまでの日本や旧宗主国の援助では届かないところに手が届くものであり、日本や旧宗主国との外交関係を見直すことにつながった。」という認識を示しました。

 パネルディスカッションでは、中国の太平洋島嶼国への援助の実態や経済成長を重視する太平洋島嶼国と伝統的な安全保障関係を強化し、この地域でのプレゼンスを維持したい日米豪の間で政治的な優先順位について乖離がある点などについて議論しました。

 第2部パネルディスカッション「太平洋島嶼国に対する日本の役割」では、岩撫明氏(太平洋諸島学会監事)の司会の下、加藤朗氏(桜美林大学教授)、黒崎岳大氏(東海大学講師)より、プレゼンテーションを行ないました。

 

 加藤氏は、安全保障専門家という立場から国際秩序と地政学的な視点を説明し、「国際秩序は、米中対立、米国の衰退というように構造的に変化している。その中で太平洋島嶼国地域は地政学的にも重要性が高まっている。日本は、中国の存在感が高まっている中でもこの地域において目に見える人的な関与を続けることが大切である。日本の取るべき方策は、米英仏豪ニュージーランドと協力して中国も巻き込む形で自由と法に基づく地域秩序の構築に取り組むべきである。それが今後の外交課題になるであろう」と主張しました。

 黒崎氏は、日本と島嶼国間の外交関係を中心に発言し、「これまで日本は、旧宗主国と違って同じ目線で接するパートナーとして評価されてきた。しかし、近年、エネルギー分野を中心に太平洋島嶼国の存在感が高まる中で日本の関与の形が変化してきている。今後、日本は、この地域に対して旧宗主国との連携を重視した協調外交へシフトする、あるいは独自の外交を進めるのか、島嶼国側の声を踏まえて考えるべきである」と主張しました。

 ディスカッションでは、太平洋島嶼国と台湾の関係、日本が掲げる『自由で開かれたインド太平洋』のヴィジョンを具体的に太平洋島嶼国に伝え、どのように外交・政治的な関与を持つべきかなどについて議論しました。

 

 

 今回のシンポジウムでは、官公庁関係者、研究者、学生、一般の人など約70名近くの方が参加し、会場との質疑応答では活発な議論を行うことができました。太平洋島嶼国は中国の進出が進んでいる点で関心を待つべき地域でありながら、我が国ではあまり議論されていないテーマです。今後も、当研究所は日本の安全保障にとって重要な問題について取り上げ、意見交換をする機会を設けていく所存です。