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論評・出版 COMMENTARIES

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「日韓輸出管理問題―韓国の誤解による不毛な主張」

小野純子
(一般財団法人安全保障貿易情報センター副主任研究員)

 

 2019年7月1日、日本政府は対韓国の輸出管理の運用を2点変更することを発表した。一つは輸出管理上の優遇国である「ホワイト国」からの除外。もう一つは半導体等関連のレジスト、フッ化ポリイミド、フッ化水素の3品目に関して包括許可から個別許可への移行である。理由は、①「輸出管理を巡り不適切事案が生じたこと」、②「ホワイト国としての信頼に基づき(優遇的)制度を運用してきたが、改善のための申し入れをしても協議が開かず、改善も見込まれない」というものだった。

 有力な自民党議員は「100輸出したうち70は製造に使われたはずだが、残る30の行方が不明なので照会しても回答がない」との説明をしていたが、これを裏付けることを日経新聞が報じている。韓国当局等に取材した記事には、日本から輸入したフッ化水素を中国の現地工場に再輸出していたとある。これは日韓中の統計とも合致する。本来、韓国向けとして許可を受けて輸出されたものは、最終用途・需要者はあくまで韓国内に限定されねばならない。さらに2015年以降18年まで、実に156件もの機微貨物の不正輸出事件が明らかになった。3年間で3倍に急増しており、5割は生物・化学兵器関連である。不正輸出先には、迂回輸出地として取り沙汰されている国々も含まれている。これらの事案は公表されていなかったため、日本の輸出管理関係者には衝撃が走った。

 日本の措置は、このような韓国内の輸出管理上強く懸念される実態も踏まえて、最終用途・需要者を確実に把握し、他国への迂回輸出が防止できる担保が可能な許可に限定したということになる。つまり、実際に問題が生じている3品目を個別許可に移行し、それ以外は、ホワイト国から除外して、厳格な自主管理を行う企業のみに付与される包括許可に限定したのである。これに対し韓国は、本件が「徴用工」問題に対する報復措置であり、韓国の主要産業に打撃を与えようとするものだと激しく反発し、韓国の優遇国から日本を除外し、WTOにも提訴した。

 韓国には大きな誤解があった。特に、①個別許可対象が、スペックを問わず3品目の全てである、②ホワイト国から除外されると3品目以外の主要製品も個別許可に移行し、一切の包括許可が使えなくなる、③個別許可にすると恣意的に遅延・不許可にできる、④これらにより、対日依存度が高い主要業種に打撃を与えようとする、という4点だ。

 しかし実際のところは、3品目について許可対象となるのは、国際輸出管理レジームで規制対象とされたものであり、フッ化水素以外の2品目は、全体の1%にも満たない。7月以降も圧倒的多数の非該当品の輸出は当然続き、該当品も個別許可が次々と出た。残る液体フッ化水素は、実際に問題があったため審査は慎重になるものの、必要な書類等が整えば時間の問題と思われていたところ、11月中旬には許可が出た。また、ホワイト国から除外されても、3品目以外が個別許可に移行することはなかった。韓国は、自国の制度が、優遇国から除外されると原則個別許可のみとなるから、それと同じだと誤解したのだろう。

 9月初めには韓国も上記を理解したようで、ホワイト国からの除外措置については、「制度変更がなされただけで実際の輸出管理規制強化につながっていない」として、WTO提訴対象から外している。また、「日本の措置による実際の生産上の被害は確認されていない」とも述べている。

 元々輸出管理にはなじまないWTOで争うことは不毛だったが、韓国は、GSOMIAと絡めて政治問題化させてしまったがために、収拾が容易ではなくなった。幸い、GSOMIA失効寸前の11月22日に、韓国がWTO提訴手続きを停止すると通告したことを受け、輸出管理に関する政策対話が再開されることとなった。対話を通じて、輸出管理の基本に即した理解と対応による信頼の回復が望まれる。

※ 詳細はCISTECのHP掲載資料を参照。

小野純子

おの・すみこ 神戸大学大学院博士後期課程単位取得退学。RIPS日米パートナーシッププログラム通算第17期奨学生。専門は安全保障輸出管理。著作に『米国輸出管理法と再輸出規制実務』、『該非判定入門』、論文に「米国輸出管理政策をめぐる政治過程」、「北朝鮮の核実験及び制裁をめぐる歴史と諸状況」等多数。