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政策提言

国家安全保障戦略及び防衛政策に関する政策提言

RIPS政策提言(2022年度版)                                                   「危機に抗して国家の総合力を発揮できる安全保障戦略-大国間競争の最前線における日本の選択」

 

1.趣旨

 平和・安全保障研究所では、我が国の外交・防衛政策に寄与することを目的に、防衛三文書(「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」)の改定に合わせて政策提言を行うべく、2月以降検討を進めてまいりました。そして、7月26日に取りまとめが完了したことから、RIPS政策提言として公表いたします。

 

2.政策提言検討委員会

 ・委員長:德地 秀士(平和・安全保障研究所理事長/元 防衛審議官)

 ・委 員:青木 節子(平和・安全保障研究所研究委員/慶應義塾大学大学院教授)

 ・委 員:河野 克俊(平和・安全保障研究所評議員/前 統合幕僚長)

 ・委 員:武田 正德(平和・安全保障研究所事務局長/元 陸上自衛隊第1師団長

  ・委 員:西原 正 (平和・安全保障研究所副会長/元 防衛大学校長)

 

3.  政策提言

(1)RIPS政策提言(PDF)

RIPS政策提言〈本文〉

(2)RIPS政策提言項目

RIPS政策提言項目

 

(3)提言項目一覧

<提言1> 脅威や課題の多様化への対応

現在進行中の技術革新や国際政治の動向を「国家安全保障戦略」における国家安全保障の目標に反映し、グレーゾーンの脅威や非軍事的脅威に対しても的確に対応できる形でこれを補強すべきである。

<提言2>「国家安全保障戦略」の各省庁におけるフォローアップと計画方式の見直し

「国家安全保障戦略」を受けて、防衛省・自衛隊だけでなく他の関係省庁も、「国家安全保障戦略」に基づいて各省庁が実施すべき施策について、実施のための指針と計画を策定すべきである。併せて、「防衛計画の大綱」で定めるべき事項も再検討すべきである。

<提言3>危機のシナリオ毎の備え

国家安全保障に関わる様々なシナリオを検討し、それぞれに即した法制度の実効性を再検討するとともに具体的な行動計画を策定すべきである。武力攻撃事態、武力攻撃予測事態、存立危機事態、重要影響事態、緊急対処事態、グレーゾーンの事態、大規模感染症、大規模災害について、具体的なシナリオを策定し、地方自治体、民間企業や市民団体との協力を実効あるものとすべく必要な法整備を行うとともに、事前の訓練を行うべきである。

<提言4>安全保障関連法制の在り方の見直し

安全保障環境の変化に適切に対応できるよう、安全保障関連法制の在り方として次の3点を追求すべきである。

  1. 関連法令の解釈にあたっては硬直的な解釈を改め、国際常識や国民の常識に合わせた柔軟な解釈を行う。
  2. 自衛隊の行動に関する立法に当たっては、いわゆるポジティブ・リスト方式を改め、可能な限りネガティブ・リスト方式を追求する。
  3. 憲法改正に当たっては、現行の憲法解釈を確定するのではなく、国際法上主権国家に許容される行動は、憲法上も制約なく許容されるようにする。

<提言5>インド太平洋地域の安全保障環境の改善

日本は、中・露・北朝鮮との間で勢力均衡を有利に維持するとともに、中国との安定した関係を構築することができるようにするため、米国、西欧やアジアの自由・民主主義勢力との連携を緊密にして、覇権主義的な中国を脅威と認識して、これに対抗していくべきである。

<提言6>日本の対中戦略の眼目

  1. 中国にとっては、台湾の統一は統治の正統性に関わる問題である。中国自身、武力による併合の可能性も決して否定しない。また、中台間の力のバランスの変化に伴い、近い将来における武力併合の可能性も取り沙汰されている。台湾海峡を巡る問題の平和的解決は、日米の安全保障上の共通戦略目標の一つであり、日本は、台湾の武力統一に反対すべく中国を牽制するため、米国と協力して中国に対して圧力を加えるべきである。
  2. 日本は中国による尖閣諸島の占拠を阻止し、気象観測施設や海難救助施設を設けて実効支配を自他ともに認める状況を作るべきである。
  3. 日本は、常設仲裁裁判所が南シナ海問題に関して中国の九段線などの主張を根拠なしとした2016年の裁定を引き続き強く支持するとともに、中国に対して裁定を受け入れ、確立した国際法を誠実に遵守するように国際社会とともに強く働きかけていくべきである。
  4. 日本は、経済や技術面での対中依存度を下げて、対中外交の幅が対中依存による制約を受けることのないようにすべきである。また、日本は、先端技術の流出防止、サイバー攻撃への備えなどにより機密情報を保護するとともに、これに関する中国側の情報を積極的に収集して、中国との技術競争で優位に立つ努力をすべきである。

<提言7>防衛力の強化と防衛費の増額

日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しくなっている今日、防衛力の強化は必須であり、このため、防衛費を大幅に増額すべきである。また、「ルールに基づく国際秩序」を維持するためには、西側諸国との強い連帯と協力が必要不可欠であり、そのためには少なくともNATO諸国並みに負担を分担していくことも必要であり、そのような観点からも大幅な防衛費増額が必要である。

<提言8>日米同盟の強化

日本を取り巻く厳しい安全保障環境に照らして、日米同盟の意義を国民に対して改めて明確に示すとともに、日米間の同盟協力の抜本的な強化を図るべきである。特に、次のような事項について積極的な検討が必要である。

  1. これまで自衛隊と米軍は各々の指揮系統に従って行動することとなっているが、これを改め、指揮権を一本化し、日米統合司令部を設立し、作戦上の連携を強化する。その前提として、自衛隊の常設統合司令部の創設も必要である。
  2. 有事の際の日本国内の空港・港湾の自衛隊及び米軍による使用について、平時から検討を進め、必要な訓練も行う。
  3. 米軍の地上発射型中距離ミサイルを日本に配備する。

<提言9>域内外のパートナーとの安全保障協力

インド太平洋地域の平和と安定に資するよう、日本は、域内の諸外国との安全保障協力を強化することが必要であり、特に、次のような措置を早急に講ずべきである。

  1. 安全保障分野におけるインド太平洋戦略を明確にする。
  2. NATOやEUとの安全保障関係を強化する。
  3. 諸外国との間で、相互のアクセスと円滑化に関する協定を締結する。
  4. 装備品の移転と能力構築支援の連携を図る。
  5. 台湾との安全保障関係の強化を図る。
  6. 中国との間で危機管理体制を強化する。

<提言10>重要物資等の安定供給

有事に、国家の存立と国民の生存の基盤を揺るがす可能性が高い物資やそれを生産する原材料、機器、設備など(以下「重要物資等」)の安定供給を図るため、平時から重要物資等の供給網の脆弱性を減じる措置を取るべきである。この目的のため、政府は、関連の物資や技術について、官民協力により実効性ある研究開発枠組を構築すべきである。

<提言11>サイバーセキュリティ

  1. 同盟国である米国及びインド・太平洋地域諸国との安全保障協力を進めるためにも、技術、法制度双方において米国並みのサイバーセキュリティ水準を確保すべきである。その際、施設・設備・機器などの「物」に近づき操作をする人員に対する身元管理・適格性診断が必要であり、そのための立法措置を講ずべきである。
  2. 現代の防衛システムはネットワークで接続している。平時から、兵器システムを狙ったサイバー攻撃に対する脆弱性を低下させる努力を行うだけでなく、防衛装備システムの利用を支える民生の重要インフラの施設・設備、装置の導入や維持管理の委託にあたり、平時からの密かな侵略を招かないよう、厳密なリスク管理を行うべきである。

<提言12>政府全体としての情報機能の強化

情報の優越を確保するため、次の3点について思い切った措置を講ずべきである。

  1. 国家安全保障上必要な情報の収集・処理・分析に必要な物的手段の強化、先端技術の活用及び幅広い関連分野の専門家の養成を加速し、防衛、治安、経済、技術等、安全保障関連の情報の融合を実現する。
  2. 情報の受け手や国民の情報リテラシーの向上を図るよう積極的な施策を講ずる。
  3. 政府としての対外的な情報発信の戦略性を高める。

<提言13>宇宙利用の優位を確保する能力の強化

  1. 軍事専用衛星の拡充と防衛 軍事専用衛星を質量ともに拡充するとともに、軍事的に重要な衛星を衛星破壊攻撃から防衛する機能を高めるべきである。
  2. 民生衛星の利用と日本の宇宙ビジネスの涵養 宇宙技術は、他の先端技術と比較し最も汎用性(軍民両用性)の高い分野であり、軍事・民生を分類する意義は乏しい。政府の民生衛星や民間の商業衛星の徹底した汎用利用を通じて、防衛力を強化すべきである。
  3. 高度なSSA能力が国防に貢献 同盟国や友好国と緊密に連携し、宇宙状況監視(SSA)能力を一層高めるべきである。

<提言14>攻撃力の保有

抑止力として攻撃力(打撃力)は保有するべきである。

<提言15>切れ目ない防衛態勢

グレーゾーン事態から有事への切れ目のない防衛態勢を構築すべきである。

<提言16>国民保護のための施策の充実

 有事における国民保護のための施策を充実すべきである。特に、訓練の実施やシェルターの設置など国民保護のための各種措置を充実することと、生物・化学兵器対策は急務である。

<提言17>自衛隊の人的基盤の維持・強化

  1. 戦闘員としての評価に基づく給与改善を図るとともに、恩給制度を創設すべきである。
  2. 学費援助予備自衛官制度を創設すべきである。
  3. 予備自衛官制度の拡大充実

<提言18>防衛産業・技術基盤の維持・強化

防衛防衛産業・技術基盤は、防衛力発揮に不可欠な要素であるにかかわらず危機に瀕しており、早急な改善を図るため、次の措置を講ずべきである。

  1. 防衛装備品の国産化方針への回帰
  2. 防衛産業の再編と政府による再編支援
  3. 調達制度の改善と官民協力関係の再建
  4. 防衛研究開発予算の拡大と研究開発体制の改善
  5. 防衛装備品の輸出拡大に向けた政府全体としての支援

過去の政策提言はこちら

〇2018年度版政策提言

「新たな安全保障戦略-高まる脅威と不透明な国際環境に立ち向かう―」

 ・日本語版 ・英語版