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人材育成 PARTNERSHIP

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【報告】2017年度 ワシントンD.C.研修

1.研修の概要
 今般のワシントンD.C.研修では,2017年9月上旬の4日間の滞在期間中,食事会も含め,計21名の有識者(政府関係者を含む。以下,同じ。)と面会し,それぞれ約1時間から1時間半の意見交換を行う機会に恵まれた。北朝鮮による6回目の核実験の直後に行われた今次研修では、トランプ政権下での日米関係をはじめ,深刻化する北朝鮮情勢、中国の台頭などついて、奨学生側から多数の質問が提起され,活発な議論が行われた。

DSC_2581.JPG2.意見交換の概要
 訪問時期が北朝鮮の核・ミサイル危機の深刻化と重なったこともあり、北朝鮮問題を中心に、トランプ政権の対応や日米同盟の在り方、両国の安全保障政策について、幅広く議論が行われた。日米ガイドラインの見直しや、安倍政権下で行われた安全保障政策の法整備等については、概ね肯定的な意見が聞かれた一方、トランプ政権の安全保障政策や環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱については、米国人有識者が問題点を吐露する場面も多く見られた。

 有識者によるトランプ政権の分析は多様であったが、基本的な特徴としては、ワシントンDC、学者、大都市に代表されるエリートの排除、取引型の外交政策、保護主義志向、金銭的価値に基づく同盟国への負担増の要請、などが挙げられた。アジア政策、特に対北朝鮮政策については、政権発足後8か月が経過した時点で、未だ一貫した戦略が形成されていないとする見方が一般的であった。日本側から、米国のアジア戦略において、ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)を維持する政策を持つ重要性を指摘するも、米国側からは、トランプ政権は、国際的なルールや規範、国際機構への関心が希薄であるとの指摘があった。

 日米関係を専門とする有識者からは、安倍総理の二度にわたる訪米は高い評価を受け、有識者の中には「トランプ大統領にとって、アジア政策のアドバイザーは安倍総理である」と評する見方を開陳する者まであった。また、北朝鮮問題の深刻化を受け、日米韓による安全保障協力の深化を、より迅速に目指すべきとの見解が多く聞かれた

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3.感想・謝辞
 これまで4期に渡り行われてきた日米パートナーシッププログラムの中で、これほどアジアの安全保障環境が緊迫化し、かつ米国のアジア政策への信頼が揺らいだ時期があっただろうか。トランプ政権の発足から一定の期間が経過し、北朝鮮が6回目の核実験を行った直後に行われた今回のワシントン研修は、まさに時宜を得ていた。短い日数にも関わらず,多くの著名な有識者と意見交換の機会に恵まれたことは,複雑化する国際関係における日米関係、そして日本の役割を俯瞰する上で大変有用であった。

 意見交換の場では、異なった立場の多くの米国有識者と同一のテーマについて議論を重ねることで、米国内の多様な立場やその対立点が浮き彫りになっていった様子は、新たな発見であった。また、異なる専門領域を持つ奨学生、特別フェローからの学びも豊富であり、意見交換の場での他の奨学生の質問や移動時の奨学生間の議論は,互いにとって良い知的刺激となった。

 今回の訪問で印象的であったのは、米国有識者がトランプ政権の問題点を吐露する一方、日米同盟やアジアにおける米国の存在について、日本側を安心させるような発言が、繰り返し行われた点であった。トランプ大統領は、ソーシャルメディアを通じ、混乱を生じさせているが、政権中枢のマティス国防長官、ケリー大統領首席補佐官、マクマスター大統領補佐官らが安全保障政策の策定過程で重石の役割を果たしているとの主張は、彼方此方で聞かれた。しかし、これらの説明は、現トランプ政権がはらむ不確実性を軽減する要因であっても、完全に消失させるものではないだろう。

 特に、国際的な制度やルールのもと、大国であっても合意したルールには縛られるという法の支配の原則を、インド・アジア太平洋に拡散し、定着化させようとする日本にとって、トランプ大統領による制度やルールの軽視は深刻な問題である。TPPやパリ協定からの離脱は、米国が既存の国際秩序を守る意志があるかという問いについて、深刻な疑問を投げかけている。国際政治を学ぶ者にとって、世界一の大国である米国における、国内政治と外交政策のリンケージの継続的な観測は、これまで以上に複雑かつ重要なルーティンワークとなっていくように感じられた。

 最後に,この場を借りて,事務局の方々による事前準備と現地でのコーディネーション、意見交換の場でのディレクターの先生方によるご指導に、心より感謝申し上げたい。ロジスティックスの管理は、小生も所属機関の業務で関わることの多い分野であるが、いわゆる裏方の仕事である。しかし、今回の研修が成功裏に行われたのは、事務局の方々の適切なロジ管理に大いに依るところが大きい。また、意見交換の場では、奨学生に発言の機会を設け、積極的に発言するよう促してくださった両ディレクターの先生方のご指導なしには、これほど学びの多い研修にはならなかったと思われる。英語での発言で、自分の言いたかったことが上手く表現できず、夜な夜な後悔することもあったが、そうした経験を含め、大変充実した研修であった。

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