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北朝鮮ミサイル発射を支える中朝共通戦略

 北朝鮮ミサイル発射予告を受け 、日本ではミサイル防衛配備、迎撃態勢と大騒動だが、現象面のみに眩惑されず、戦略的課題を熟考する必要があろう。

 ミサイル分析第一人者のDavid Wright博士は ‘North Korea’s Launch: Threading the Needle’ で北朝鮮と韓国のロケット打ち上げの興味深い比較分析をしている。北朝鮮の場合、日本列島を横断した前回2009年のテポドン2の場合と異なり、太平洋上 を南方に飛翔する今回、沖縄南西諸島沖以外日本はミサイル経路に入らない。落下物危険ゾーンでいえば、上海、台北、フィリピンの方が沖縄よりも遥かに近 い。これに対し、2009・2010年の2度にわたり打ち上げに失敗した韓国のロケットは九州西端から僅か100kmの海上を沖縄本島上空からオーストラ リアのダーウィンに飛翔した。その韓国は、最近まで日本を第一仮想敵国とし、現在も竹島や日本海名称、従軍慰安婦などを理不尽に外交問題化している。ロ ケット経路だけをとれば、北朝鮮の方が韓国のロケット経路より更に西側に日本から離れている。米軍が集中する沖縄上空を避けた点からも、日本を刺激したく ないという北朝鮮側の意図が窺われる。

 北朝鮮の今回のミサイル経路は、ダーウィンを始め南太平洋各地に機動的に展開して対中国包囲網を築きつつある在外 米軍を牽制する狙いがある。アジアに於ける米国の軍事的プレゼンスを牽制するという中国-北朝鮮共通の戦略目標だ。因みに近年中国は経済開発という名目で 羅津など北朝鮮の重要港湾を整備し50年間の使用権も獲得、一部には中国軍駐留の報道もある。羅津は日本海への出撃基地にうってつけだ。筆者はかねがね中 国の対北朝鮮政策は擬似満洲国政策と指摘しているが、その点からも北朝鮮内への中国軍駐留は必然であろう。また中国の核問題専門家沈丁立は「北朝鮮の核武 装は朝鮮半島での紛争を抑止し、また中国が台湾を攻略する際の援護になる」と明言している。北朝鮮の核武装は中国の大戦略にかなっているのだ。

 今回のミサイル防衛態勢も疑問だ。落下物の迎撃という余り意味のない態勢の軍事技術的延長線上にあるのは、 在日米軍でなく、遥か彼方の在外米軍基地やひいては米国本土を標的に飛翔するミサイルを日本近海で迎撃しようとする事実上の集団的自衛権行使で現行憲法に 抵触する態勢だ。こうした態勢が真に日本の防衛に資するだろうか。日本が在外米軍基地と米国本土を守る盾、文字通り不沈空母になるだけではないのか。既に 米海兵隊は、中国ミサイル射程内の日本から実質的に後退を始めている。米中間の対立はいよいよ新帝国主義的覇権抗争の様相だ。万が一米中間で武力紛争が起 きた場合、それは米中それぞれの本土でなく、日本を中心とする東アジア地域が舞台となろう。かつて新興帝国日本が権益護持の生命線と位置づけた満洲は日露 戦争の舞台となって焦土と化した。近未来の米中戦争は、中国が権益護持の生命線とみなす第一列島線で戦われる可能性が高く、その中核である日本が焦土と化 す危険が非常に高い。北朝鮮のミサイル発射は、北朝鮮個別の問題行動としてではなく、この米中対立という大戦略の文脈で理解されなければならない。

 因みに、日本のロケット開発や大量の余剰プルトニウムは、海外では潜在的核ミサイル能力として強く警戒され、 昨年の福島原発爆発も「日本の潜在的核兵器製造能力を削ぐ為の破壊工作では」と一部に憶測が出たほどである。それを考えれば、北朝鮮が強調する「平和利用 目的のロケット発射」を、その政治的意図は明らかにしろ、頭ごなしに否定していたずらに軍事的緊張を高めるのは必ずしも日本の戦略的利益に叶わない。実際 に中国軍部は、日本のロケット技術や大量の余剰プルトニウムを以て日本を「準核武装国」と認識している。いま日本に求められるのは、冷戦中に西ドイツが とった東方外交政策のような危機緩和の為の積極的関与外交を北朝鮮に対して採り、また中国台頭と米軍抑止力の相対的低減に備えて自前の防衛抑止力を強化す ることではなかろうか。