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日本のアフリカ外交はTICAD偏重のイベント外交と化すべきではない

 2016年8月27・28日、第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)がケニアの首都ナイロビで開催された。TICAD(Tokyo International Conference on African Development)は、もともと日本政府が1991年に国連の場で提案し、一貫して主導してきたアフリカ開発に関する国際会議である。

 第1回会議が1993年10月に東京で開催されて以来、5年ごとに日本で開かれてきたが、アフリカ側からの要請もあって3年ごとに日本とアフリカで交互に開催する形式に近年変更された。第6回会議は、そうした変更後初の、しかもアフリカで開催される初めてのTICADとなった。

 注目すべきは、その規模の大きさである。今回のTICAD Ⅵには、日本及びアフリカ54ヵ国の首脳・代表団や74の国際機関・地域機関の代表などが出席し、サイドイベントを含む参加者数は1万1000名以上にのぼった。第1回会議(1993年)の参加者数が約500名にすぎなかったことを思うと、23年後の第6回会議(2016年)の規模の大きさがよくわかる。TICADは、いまや日本のアフリカ外交上の一大イベントであるばかりか、日本外交全体にとっても最大級の国際会議なのである。

 TICAD Ⅵが成功裏に終了したことについては、諸手を挙げて歓迎したい。しかし、日本のアフリカ外交がTICADのようなイベント外交に偏重しつつあることに危惧の念を覚える。

 TICADが大規模イベント化するひとつの契機は、第4回会議(2008年)で「官民連携」が打ち出されたことにあった。第1回(1993年)から第3回(2003年)までのTICADは、アフリカ諸国を「援助の受入国」として位置づけ、いわば「国際協力」「国際開発」という視点からアフリカ開発について議論するという色彩が濃かった。ところが、その後、日本の政府開発援助(ODA)が削減される一方、アフリカ諸国が資源価格の高騰を受けて高度成長期に入ると、日本はアフリカを「ビジネスのパートナー」とみなすようになる。そしてそうしたなか、第4回会議(2008年)では、日本政府ではなくアフリカ市場に進出する日本企業を主役に据え、援助だけではなくビジネス、特に投資を促進することで、日本の官民が連携してアフリカ開発を支援するという方向性が前面に打ち出された。

 第6回会議(2016年)は、そうした「援助から投資へ」という第4回以降の潮流がまさに大きく開花した会議であった。同会議には、経団連会長をはじめとする数多くの日本企業トップが参加し、「日本・アフリカ・ビジネスカンファレンス」や「日本・アフリカEXPO(ジャパンフェア)」といった、ビジネス促進のためのサイドイベントが開催された。また、安倍晋三首相は、開会セッションでの基調演説のなかで、日本の民間企業のアフリカ進出を支援するために、アフリカ諸国との間で投資協定や租税条約の交渉を進めることや、日本の政府要人や財界人が3年に1度アフリカを訪問して「日本アフリカ官民経済フォーラム」を開催することなどを表明している。

 日本・アフリカ関係における貿易や投資といったビジネスの重要性を否定するつもりは毛頭ない。それどころか、その重要性は強調してもしすぎることがないくらいだ。しかし、「官民連携」の名のもとでビジネスを過度に強調し、援助をあくまでもビジネス環境整備のための道具とみなす傾向が行き過ぎれば、話は別である。

 近年のTICADにみられる脱国際開発化やビジネス関係重視という傾向は、日本やアフリカを取り巻く時勢を反映したものといえる。しかし、日本のアフリカ外交が取り組むべき課題は、ビジネス関係の強化だけではないはずだ。その意味で、日本のアフリカ外交が、今後3年ごとに日本とアフリカで交互に開催され、ビジネス重視の傾向を一層強めるTICADという大規模イベントの準備だけに追われることなく、外交政策としての質的な拡充を着実に進めることを期待したい。日本のアフリカ外交はTICAD偏重のイベント外交と化すべきではない。