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「日本は今こそ積極的に香港との関係を強化すべし」


 香港返還から20年、中国もWTOに加盟し世界第2位の経済大国となった今日、香港がこれまで享受してきた政治面での自由や民主、言論の自由に揺らぎが生じており、今後、香港は経済面でも中国の一地方都市化してその魅力を失ってしまうのだろうか。

 中国共産党は、「一国二制度」の下、駐留する人民解放軍を「後ろ盾」としながらも、香港に対して強制力による威圧ではなく、議会・行政を通じた懐柔を行ってきた。しかし、香港人アイデンティティは年々高まり、2014年9月には香港行政長官選挙をめぐる反政府抗議行動として「セントラル占拠」が発生し、懐柔が困難な「港独」(香港独立)の論調が台頭した。

 2016年9月に行われた立法会選挙では、全70議席中、新大陸系の建制派が過半数の40議席を獲得したが、非建制派30議席の内、「セントラル占拠」後に台頭した本土派(独立派、自決派)が6議席を獲得した。これに対して、全国人民代表大会(全人代)常務委員会が宣誓について定めた香港基本法第104条の解釈を示し、同解釈に基づいて香港の高等法院が、彼らの宣誓が無効であり議員資格を失効するという判決を下した。

 今年7月、習近平国家主席は香港訪問時に行った香港返還20周年祝賀スピーチの中で、国家主権や中央政府の権力に対する挑戦はボトムラインに抵触するもので絶対に許容できないと述べた。その上で、香港に対して香港基本法第23条の立法化を含む「国家の主権・安全」に関する制度を完備することや、青少年に対する愛国主義教育を強化することを要求した。

 また、今年10月に行われた中国共産党第19回全国代表大会の報告では、香港の「一国二制度」を世界が認める成功を得たと自賛するとともに、中央の香港に対する「全面的な管理権」の擁護と香港の「高度な自治権」の保障とを有機的に結合することを強調した。これは、香港が「高度な自治」、「独立した司法権」(香港基本法第2条)を有するものの、中央の「全面的な管理権」を前提とすることを改めて示すものであった。

 このように習近平政権は、対香港政策の柱として、「二制度」を維持したまま、「港独」の論調を排し、「一国」すなわち国家主権の強化を試みている。しかし、中国が「一国」の側面を強化することで、香港社会の歪みは大きくなり、政治的リスクが高まることとなる。7月に発足した林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官にとっての最大の課題は、分断された香港社会の融和であり、中国政府と香港市民との間で難しい舵取りを迫られている。

 その一方、中国共産党は、今後も香港の発展を支援することや「粤港澳(広東・香港・マカオ)大湾区」構想を推進することも強調した。同構想は、広東省の9市に香港、マカオを加えた大珠江デルタを1つの経済圏とみなす相互発展計画である。今後、経済面では「粤港澳大湾区」や「一帯一路」構想、香港・ASEAN自由貿易協定等によって、香港の中国および東南アジアへのゲートウェイとしての役割はむしろ強化されていくものと見られる。

 日本はこれまで先人の努力によって香港との経済、文化面での結びつきを深め、親日的土壌を育んできた。実際、日本の香港への進出企業数は1位であり、日本にとって香港は農林水産物・食品の最大の輸出先である。また、香港にとって日本は世界第3位の貿易相手国である。2017年5月に行われた香港大学による香港市民への民意調査では、日本人は世界の16の国と地域の中で台湾に次ぐ高い好感度を獲得している。ただし、対香港直接投資の総額は増加傾向にあるにもかかわらず、日本の対香港直接投資額はここ数年減少傾向にある。

 香港の政治面での自由が失われつつあり、社会の分断が進む中、今こそ日本はこの土壌を守り育むために、積極的に香港との関係を強化すべきである。今後も香港が「一国二制度」の下で従来の自由で開かれた体制が維持され、一層安定、繁栄していくとともに、日本との緊密な交流関係が維持、発展していくことが期待される。そのためにも、「二制度」の維持を支持し、政治的リスクを可能な限り回避し、香港で担保され得る権利と自由を守るべく、林鄭月娥行政長官および香港政府との緊密な協力関係を構築していくことが望まれる。