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「2018年の国際政治情勢:トランプがもたらす混迷と日本の取るべき行動」

 トランプ政権が誕生してから早二年。この間、世界情勢は大きく動いている。その最大の要因は、グローバルな影響力が漸減しつつある米国の世界におけるプレゼンスの低下である。たとえば昨今、国際報道の多くを占めるのは中東情勢だが、同地域の不安定化と混乱の多くは米国の存在感の低下に起因する。さらに、イスラエルの首都としてエルサレムを承認するトランプの決定は、中東和平の仲介者としてのアメリカの役割に終止符を打ち、代わって新たなパワーブローカーとして浮上したのは同地域におけるプレゼンスの拡大に成功したロシアである。

 他方、欧州ではメルケル首相が「我々の将来はヨーロッパ人自らが創り出す時が来た」と言い放ち、以前ほど信頼できない米国から距離を置く外交政策を追求しつつある。米国を中心に据えた北大西洋条約機構(NATO)に安全保障を従来委ねてきた他の欧州諸国もこうした姿勢を改め、昨年末に欧州連合(EU)の23加盟国による恒久構造防衛協力(PESCO)を発足させて相互の防衛協力の強化を目指している。むろんこれはNATOと置き換わるものではないものの、欧州が独自に地域の安全保障について考え始めているのを示す。

 では、アジアはどうか。この地域では大国としての野心をもはや隠さない中国が君臨し、その影響力が日増しに拡大しているにもかかわらず、米国の対アジア基本戦略は全く見えてこない。昨年六月のシャングリラ・ダイアローグでマティス国防長官はアジア・ピボット(リバランス)という言葉を使わずに、米国のアジアへのコミットメントは揺らぐことなく今まで通り堅固だと訴えたものの、同様の発言がトランプ大統領から発せられない以上、どうしても説得力を欠く。

 こうした状況を尻目に、中国は南沙諸島での要塞化を急ピッチで進めているほか、東南アジア諸国連合(ASEAN)の分断工作、そして一帯一路(最近では氷上シルクロードも提唱)の拡大など、勢力圏拡大にひたすら邁進している。その他にも、米国がグローバルな諸問題に背を向ける中で、皮肉にも地球温暖化などの環境問題、さらには世界において自由貿易を擁護するリーダーとしての立場を確立しつつある。目下、米韓関係も試練の時期を迎えており、駐韓米国大使が未だ任命されていない事実が象徴するように、同国に対するアメリカのコミットメントは必ずしも盤石ではない。ならばこの地域で中国の浸透に対抗できるのは日米同盟のみとなる。

 日米の防衛協力体制は集団的自衛権の容認を皮切りに、深化・強化されつつある。くわえて、安倍首相の巧みな個人外交によってトランプのエゴも満たされ、個人レベルでも日米関係は極めて良好だ。しかし、今年の米国は中間選挙の年である。それゆえ、地政学的な見地から日米同盟の重要性を熟知しているマティス=ティラソン・ラインの重要性は相対的に低下し、今後は米国の有権者に確実な果実を与えられるロス=ライトハイザー・ラインがより重視されよう。つまり、日米経済交渉の結果いかんでは現在の日米関係にも歪は生じかねない。さらに、ロシア疑惑をめぐる捜査が進展するにつれ、トランプの主関心は否応なく国内政治に向けられるかもしれない。

 こうした米国の日本からのコミットメント後退へのカウンターとして、日本もより積極的に独自の安全保障枠組みを構築する必要がある。その大前提となるのが憲法改正だが、その他にも現在では実態が曖昧な「インド太平洋戦略」の具体化、そして中国の行動を脅威として認識している近隣諸国との防衛交流のさらなる促進などが焦眉の課題となる。とりわけ日本の南西方面の安全保障と密接に関わる台湾との非公式な交流は、経済領域を含め、拡大する余地は十分にある。むろん、これらは日米同盟の代替ではなく、自国のみが安全保障コストを一方的に負担しているとする米国の批判をかわすとともに、価値共有連合によるスクラムという強い意志と姿勢を示しつつ、米国のアジア地域への関与を繋ぎとめておくために必要な行動である。