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論評・出版 COMMENTARIES

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「『一帯一路』への参加リスクの精査を」

渡辺 紫乃(上智大学 教授)

 今年は1978年に締結された日中平和友好条約の40周年にあたる。昨年10月末の中国共産党第19回党大会が無事終わり、習近平の権力基盤は強化されたことで、習近平政権2期目の中国外交が本格的に始動した。そして11月のベトナム・ダナンでの日中首脳会談では、2018年中の安倍晋三総理の訪中と習近平国家主席の訪日が提案されるなど、日中関係改善の機運が少しずつ高まってきた。

 昨年来、中国が日本に期待を高めている要因の一つは、安倍総理が「条件付き」ではあるが、習近平政権が積極的に進めている「一帯一路」への協力の姿勢を示したことである。昨年5月に北京で開催された「一帯一路フォーラム」に日本からは二階俊博自民党幹事長や今井尚哉総理秘書官が出席した。そして、翌6月に東京で開催された国際会議において、安倍総理は、「一帯一路」への協力にあたって、①インフラ整備は万人に開かれ、透明で公平な調達がなされること、②プロジェクトに経済性があること、③借入国にとって債務の返済が可能で財政の健全性が損なわれないことを条件とすることを明らかにした。

 今年になってからも日本は「一帯一路」への協力姿勢を明確にしている。1月末に河野太郎外相が訪中して王毅外相と会談した際、日中首脳の往来と日中関係を改善することで合意するとともに、透明性や開放性、国際基準への合致を条件に「一帯一路」への協力を約束した。また、安倍総理は、2月中旬の衆院予算委員会で、「インフラの開放性、透明性、経済性、対象国の財務健全性など国際社会共通の考え方を取り入れ、地域と世界の平和と繁栄に貢献することを期待する。日本もこうした観点から協力したい」と述べた。

 このような一連の発言から、日本政府は「一帯一路」のインフラ整備に日本企業が参加することを事実上認めたといえる。確かに、日本企業にとって「一帯一路」への参加はビジネスチャンスに見えるだろう。しかし、一見バラ色にみえる「一帯一路」に参加することのリスクも十分考えておく必要がある。

 「一帯一路」によるインフラ建設が行われる国の多くは、財政的に厳しい発展途上国である。これらの国が世界銀行やアジア開発銀行からの借り入れや日本の円借款ではなく、あえて中国から多額の融資を受けてインフラ建設を行う理由を考える必要がある。中国から安易に融資を受け入れることで債務が一方的に膨らみ、中国からの借金づけや債務過多になりかねない。John Hurley、Scott Morris、Gailyn Portelanceの研究によれば、ジブチ、モルディブ、ラオス、モンテネグロ、モンゴル、タジキスタン、キルギス、パキスタンが特に債務危機に陥る可能性が高い※1。

 しかも、中国からの融資条件は必ずしも借り手に有利とはいえない。スリランカのハンバントタ港は、中国から約13億ドルの融資をうけてラジャパクサ政権が整備したが、スリランカ政府は高金利のために資金の返済ができず、昨年12月に港の運営権を99年間中国に譲渡することになった。日本企業が「一帯一路」のプロジェクトに参加する場合、投資対象国が抱えるリスクや、プロジェクトが中国主導で進められているリスクなどを考慮する必要がある。

 安倍政権が2016年8月に発表した「自由で開かれたインド太平洋戦略」の重要な柱の一つは、インフラ整備による連結性の強化である。日本政府は、ODAの活用や日本企業の参加などを含め、この戦略をより一層具体化させる必要がある。同時に、日本の「一帯一路」への参加姿勢に中国が過度の期待を抱かないよう、日本としては何ができて何ができないのか、何をすることが望ましいのか、明確に主張していくことが大切である。