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論評・出版 COMMENTARIES

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「インド太平洋パワー」としてのフランス〜日本は地域安定化のためにさらなる連携強化を

 

 

 

合六 強

(二松學舍大学国際政治経済学部専任講師)

 

 

 近年、欧州でインド太平洋地域への関心が高まっている。英仏がこの地域での軍事的関与を強化しているのに加え、昨年にはドイツとオランダがインド太平洋に関する政策文書を発表した。これらは「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を掲げる日本にとって歓迎すべき動きだ。

 日本が推進するこの概念を欧州のなかでいち早く受け入れてきたのがフランスである。同国では14年以降、「フランスとインド太平洋(当初はアジア太平洋)の安全保障」という冊子が発表されてきたが、18年と19年には外務省、軍事省がより詳細なインド太平洋戦略を策定した。またマクロン大統領は同地域で積極的な役割を果たしていく意向を示し、フランスを「インド太平洋パワー」と打ち出した。昨秋には外務省にこの地域を統括する大使ポストも新設され、前駐豪大使がここに就いている。

 フランスが「インド太平洋パワー」を自認するのは、同地域に150万人の仏国民が住む海外領土や世界最大規模のEEZを有しているからだ。また両海域には基地があり、約7000人の兵力が駐留する。これらは、フランスが地域の当事者で、それゆえその関与が真剣であることを打ち出すために繰り返し言及されている。

 フランスの関与が強まっているのは、世界経済の重心がこの地域に移り、その重要性が高まっているにもかかわらず、米中対立や多国間主義の弱体化により戦略環境が不安定になっているからだ。フランスは、北朝鮮、テロ、気候変動などを脅威として挙げているが、なかでも南シナ海での軍事拠点化に見られる中国の覇権追求については、ルールに基づく国際秩序の維持という観点から深刻な懸念を抱いており、独自の航行の自由作戦を南シナ海や台湾海峡で行っている。

 そしてフランスは同盟国の米国、そして価値を共有するパートナーとの協力を通じてこの地域の安定化を図ろうとしている。特に重視されているのが豪州とインドだ。両国との戦略的関係は、潜水艦や戦闘機等の武器移転や軍事演習を軸とする防衛協力により支えられているが、18年の両国との首脳会談では両海域での連携強化が確認され、互いの軍事施設へのアクセスが可能となる相互補給支援協定も締結された。また昨年には仏豪印三者対話(次官級)が初めて行われ、今後も定期的に開催されるという。

 これと並び進展が目覚ましいのが日仏間の協力である。14年に始まった外務・防衛閣僚会合を通じて協力範囲は拡大し、これまでに防衛装備品・技術移転協定や物品役務相互提供協定(ACSA)などを締結している。また注目すべきは、自衛隊と仏軍の間で実施されてきた訓練・演習が、対潜戦といったより実践的なものになり、米英豪などを加えて多国間で行われている点である。昨年訪日した仏海軍参謀総長は日米豪印の連携枠組み「QUAD」の共同訓練に参加する意向を示しており、今年5月には離島防衛・奪還を想定した日仏米の訓練も予定されているという。

 米国でバイデン政権が誕生するなか、日米同盟の重要性とFOIP実現に向けた連携強化の確認が日本にとって喫緊の課題となる。ただし当面内向きにならざるをえない米国は、今後も同盟国に一層の防衛分担を求めるだろう。負担分担については欧州・アジアの米同盟国が正面から取り組むべき課題で、この観点からも米同盟国間の連携強化は、この地域への米国の関与を確固たるものにする上で重要な意味を持つはずだ。日本は対仏関係を近年多角化している安全保障協力の一つの柱と位置付け、両国にとって重要な米豪印などと柔軟かつ多層的な枠組みを作り、QUADを含めた枠組み同士の連携を主体的に進めることで、地域の安定化に貢献すべきである。

 

合六強

ごうろく・つよし 二松學舍大学国際政治経済学部専任講師。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、同大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得満期退学。慶應義塾大学法学研究科助教、海上自衛隊幹部学校非常勤講師などを経て、2017年より現職。専門は米欧関係史、欧州安全保障。共著書に、『新たなミサイル軍拡競争と日本の防衛−INF条約後の安全保障』(並木書房、2020年)。平和・安全保障研究所日米パートナーシップ・プログラム第4期生(安全保障研究奨学プログラム通算第18期生)。