去る2月12日に、RIPSはパリでIfri (フランス国際関係研究所)と共催で、専門家セミナーと公開シンポジウム(フランスでは「公開会議」という)を成功裏に実施することができた。いずれも「流動する東アジアの安全保障―これからの地域秩序は?」というテーマのもとに行われ、有意義な会合となった。
午前中と午後の前半に行なった専門家セミナーは、「流動する東アジアの安全保障」、「海洋安全保障―競合と協力」、「朝鮮半島の将来」の3セッションで9本の論文を中心に活発な議論を行った。13名の参加者および22名のオブザーバーは、仏、日、米、シンガポール、ベルギー、スペイン、スウェーデンなど、東アジアに関する安全保障問題の専門家であった。
夕方に行なわれた公開シンポジウムは「東アジアからインド太平洋へ―戦略的リスク、大国の移行、新秩序の誕生」と題して、基調講演者(シンガポール)と3人のパネリスト(日、米、フランス)が冒頭に発言した。会場には約120名の参加者があった。こちらの方は、時間不足で議論をする十分な時間がなかったのは残念だった。全体の議論を通して、以下の留意点を挙げたい。
(1)参加者の多くの関心は、インド太平洋の安全保障の展望および米中関係の変化にあった。インド太平洋構想には中国を中に入れるか入れるべきでないか、また同構想は一帯一路構想と対立するのかなどが、興味ある論点であった。
(2)「ヨーロッパのインド太平洋への関心が大きいことを知り、やや驚いた。とくにフランスが同地域への積極的役割に大きな関心を示したのが、新鮮な驚きであった。
(3)米中関係の変化への関心も大きかった。朝鮮半島の問題もそういう文脈で議論されることが多かった。欧州からは朝鮮半島の将来に関して多国間協議による解決を推す見解があったが、日米は悲観的な見方が示されて興味深かった。
(4)中国の覇権主義的進出への懸念も大きかった。ヨーロッパ側が中国の将来に懸念を強く表明したのは、最近のヨーロッパの変化の表れと理解した。
(5)領土問題に関しては、ペーパー(西原執筆)が「領土問題は地域の安全保障と密接に関係する重要な問題だ」と指摘したが、米国、ヨーロッパの参加者はともに強い関心を示すことはなかった。多分異論がなかったのであろう。(RIPSがこれまでにヨーロッパで開催した会合でも、米欧の参加者がわざわざ「日本側の主張が正しいですよ」と発言することはなかった。)しかし日本が抱える領土問題がどのような経緯で現状に至ったかについての理解は深まっていると感じられた。
平和・安全保障研究所
理事長 西 原 正