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人材育成 PARTNERSHIP

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【報告】2017年度 ワシントンD.C.研修

1.研修の概要
 2017年9月4日から7日にかけて4日間の日程で、日米パートナーシップ・プログラム第4期(「安全保障研究奨学プログラム」からは通算第18期)奨学生は「ワシントンD.C.研修」として、シンクタンクや大学、政府機関などを訪問し、計21名の有識者(政府関係者を含む)とそれぞれ1時間から2時間程度の意見交換を行った。

 2017年に入り、トランプ政権が成立、日米首脳会談も行われ、北朝鮮の核・ミサイル実験が繰り返されるなかで、有識者からのブリーフィングの焦点も、トランプ政権の外交安全保障政策、トランプ時代の日米関係、北朝鮮への対応に集まった。またそれぞれ異なる専門領域を有する奨学生側からも、各々の観点から質問・コメントがなされ、上記にとどまらない幅広いテーマについて活発な議論が行われた。

CSC_2595.JPG2.意見交換の概要
 意見交換のテーマとしては、トランプ政権の外交安全保障政策、トランプ時代の日米関係、北朝鮮への対応がメインを占めたが、奨学生側からより中長期的な課題として、中国の海洋進出やロシアの台頭についても問題提起がなされ、非常に有意義な議論が繰り広げられた。

 まずトランプ政権の外交安全保障政策については、これまでの政権との違いを強調する有識者が多かった。よく指摘されるように、「取引(deal)」を軸に据えた外交、保護主義的傾向、また同盟国との負担分担などの問題が提起された。ただし、世論調査によれば、米国民はイラク・アフガン戦争後の内向き志向から再び外向きになっており、必ずしも米国全体の構造的な変化の帰結として「アメリカ・ファースト」が展開されているわけではないとの指摘もあり、大変興味深かった。

 また政策決定過程についても、ケリー大統領補佐官、マクマスター安全保障担当大統領補佐官、マティス国防長官といった穏健で優秀な人材が大統領の側近にいることは安心材料であるものの、訪問直前に上級顧問を事実上解任されたバノンなどトランプ政権誕生に貢献した保守的な人々が今後どのような影響をもたらすか、いまだ不確かであるとの悲観的な見方もあった。ちなみにビジネスの世界で手腕を発揮し、このたび国務長官に抜擢されたティラーソンについては、国務省という組織の「合理化」以外のテーマであまり言及がなかったことも付言しておく。

 第二に日米同盟については、近年の日本側の取り組み(ガイドラインの見直しや安保法制など)を歓迎する声が多く聞かれ、特にトランプ政権誕生後の安倍首相個人の役割について想像以上に高い評価がなされていた点は驚きだった。ただし、トランプ大統領がTPPやパリ協定からの離脱を決めたように、同政権は既存の国際秩序の維持、特に国際的な規範やルールへの関心が低いとの指摘もあり、日本側の働きかけでは限界があることも痛感した次第である。

 そして北朝鮮の核ミサイル問題については、トランプ大統領が個人的にこの問題を非常に重視している一方、一貫したアジア政策がないなかでアドホックに対応していることへの懸念の声もあった。ただこの問題に関連して、日米、または日米韓の三カ国で安全保障協力を深化させて対応する必要性については、多くの識者が唱えるところだった。

 奨学生のなかには日米関係以外を専門とする者も多くいるため(欧州安全保障を専門とする筆者も含む)、よりグローバルな観点から有識者に質問を行う場面も多く見られた。例えば、今後の国際秩序のあり方に多大な影響を及ぼしうる中国やロシアの動向についても活発的な意見交換がなされ、より広い観点から日米同盟を位置づける重要な機会となった。

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3.感想・謝辞
 4日間という短い期間ではあったが、日米同盟の深化に尽力する著名な有識者を直接訪問し、意見交換をする機会を持てたことは大変有益であった。多様なバックグラウンド、また異なる専門領域を持つ有識者と同じテーマで議論を重ねたことで、現政権やその政策に対して同じような懸念があっても、今後の日米同盟に関して識者によって微妙に異なる評価が下されていた点は興味深い。有識者の多くは、トランプ政権の「独自性」や「例外性」を指摘する一方、我々(日本側)を安心させるような発言(穏健な側近や制度の重要性、また同盟の成熟度など)も多く飛び交った。これは、シンクタンクに勤める彼らが「分析者」である一方、ある意味では同盟を内側から支える「インサイダー」としての役割を担っていることを示していよう(もちろんそれでも悲観的な論者もいたことも付け加えておく)。またこの研修での議論を通じて、異なる専門分野をもつ同期の奨学生からの質問やコメントからも多くのことを学んだ。

 トランプ政権誕生から7ヶ月、これまでのところ日米関係はバイラテラルにみる限り比較的順調に管理されているように思える。しかし既に指摘したとおり、トランプ大統領は国際的なルールや規範、既存の国際秩序の維持にどうも関心が薄いようである。またすでにNATOでは起こっているように、今後日米関係においても問題が表面化しないとは言い切れない。中国の海洋進出やロシアの台頭といった、既存の国際秩序を維持していくうえで中長期的に取り組まなければならない課題を抱える我々としては、よりグローバルな観点から日米同盟を位置づける必要があろう。日米関係の専門家はもちろん、より多様な専門領域を持つ日米の識者が対話する必要性を再認識した。その意味で、今回の研修を通じて奨学生一同、それぞれの専門を活かすかたちで積極的に対外発信していく決意を新たにした。

 最後にこの場を借りて関係者の方々に心より御礼を申し上げたい。今回の研修で実りある経験ができたのは、国際交流基金日米センター(CGP)のご後援と平和・安全保障研究所の西原正理事長によるご支援のおかげである。また昨年の韓国研修に引き続きワシントン研修でも大変な準備をしていただき、現地でも奨学生が議論に集中できるよう環境を整えてくださった事務局の方々、また意見交換の場、そして移動のなかで様々な形でご指導くださったディレクターの土山實男先生と神谷万丈先生には深く感謝申し上げたい。

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