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人材育成 PARTNERSHIP

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【報告】2018年度 陸上自衛隊「総合火力演習」 見学研修

第5期奨学生:中村 長史(東京大学 大学教育研究センター 特任研究員)

 2018年8月25日(土)、日米パートナーシップ・プログラム第5期生は、陸上自衛隊の東富士演習場における「平成30年度富士総合火力演習」を見学した。見学に先立ち、平和・安全保障研究所の武田正徳事務局長より、演習の基礎知識に関するブリーフィングを受けた。武田事務局長は陸上自衛隊を退役された陸将で、少年工科学校長や高射学校長、第1師団長も務められた専門家である。ブリーフィングは陸上自衛隊の職種(兵科)から装備品の 移り変わりに及ぶ包括的なものであったが、キャタピラ(履帯)がついているものはすべて「戦車」であると何となく思っていた筆者にとっては、「戦車」と「自走砲等」との区別は、演習を見学するにあたっての事前知識として、とりわけ有益であった。

 演習は前段(10時~11時)と後段(11時15分~12時15分)に分かれており、前段では、「遠距離火力」(りゅう弾砲等)、「中距離火力」(迫撃砲等)、「近距離火力」(装甲戦闘車等)、「ヘリ火力」(対戦車ヘリコプター)、「対空火力」(自走高射機関砲)、「戦車等火力」といった主要装備品が紹介されたあとに空挺降下が披露された。各装備品の特徴や運用方法、目標地点などについては、随時アナウンスがなされ、時にはスクリーンを使っての詳細な説明もあるため、筆者のような装備品に詳しくない見学者にとっても、十分に理解ができるようになっている。このような配 慮は、爆発音の大きな装備品を紹介する際には事前に注意が促されるといった形でもなされていた。そのため、見学者は心の準備を整えることができるのだが、それでも、その音や弾丸の速さには驚かされる。演習の様子は動画でも配信されているが、生で見学すればこそ感じられる点だろう。

 後段では、日本の島嶼部が攻撃を受けた際の対応として、陸・海・空の各部隊がどのように「部隊配置」、「機動展開」、「奪回」を実施するかの作戦が展開された。ここでも、シナリオがスクリーンを使って説明されるため、どのような装備品を使ってどのような作戦が展開されているのかを常に把握しながら見学することができる。本年に導入された水陸両用車は、総合火力演習に初めての参加となった。シナリオにおいては、自衛隊の電磁波攻撃により相手の通信を混乱させるのみならず、自衛隊もまた電磁波攻撃を受けて一部の通信に混乱が生じた場合が想定されていた点に、実践的であるとの印象を抱いた。前段でその威力を確認した様々な装備品も十分に連携がなされたうえで運用されてこそ効果を発揮する。その意味で、電磁波攻撃を避けたり、受けた後にどのように対処したりするかは、装備品それ自体と同様の重要性を持っているといえよう。前段と後段の構成は、このような理解を自然と可能にしてくれるものであった。

 本演習は毎年8月に開催され、陸上自衛隊の様々な装備品を見られるとあって、観覧券の抽選倍率の高さが話題になるほどの人気ぶりである(本年度は約28倍とのこと)。演習の第一目的が富士学校の学生に対する訓練・教育であるのはいうまでもないが、先述のアナウンスやスクリーンによる工夫の施された説明からは、国民への広報も十分に念頭に置かれているといえる。それでいえば、見学できたのは、もちろん装備品ばかりではない。演習の作戦に参加していた自衛官はもとより、会場内外でてきぱきと礼儀正しく誘導をしていた自衛官を間近に見て、その規律の高さを改めて感じることができた。それと同時に、国際政治学を専攻する者として、自分も自分の仕事をしなければならない、すなわち、この実践的な演習が実戦とはならないような対外政策を考え続けなければならないとの思いを一層強くした次第である。 

 末筆ながら、このような貴重な機会を与えてくださった平和・安全保障研究所および国際交流基金日米センターに心からの御礼を申し上げたい。