MENU
閉じる

論評・出版 COMMENTARIES

ホーム > 論評-RIPS' Eye > 今こそ横断的な政策を

今こそ横断的な政策を

 

 

望月康恵
(関西学院大学法学部教授)

 

 2020年前半のコロナ禍(COVID-19)は、ナショナリズムとグローバリズムという相対する動きを示した。コロナウィルスに対処する為に、国家は国境を閉鎖し人やモノの動きを制限した。多くの国が鎖国状態に入ったのである。その一方で、コロナウィルスとの闘いには、地球規模の取組みが不可欠であることが改めて確認された。医薬品の開発と普及、アクセスを確保する多国間の枠組みが作られ、世界保健機関(WHO)を始めとする国際機構、各国政府、民間企業による協力体制が作られた。

 国際社会がこれまで経験したことのないコロナとの闘いにおいて、日本も積極的な関与が求められるが、分野横断的な視点に立つことが肝要である。

 コロナ禍においては、人権と環境の視点を取り入れることが求められる。まずコロナに罹患した者のプライバシーへの配慮など人権の保護が重要となるが、その一方で、社会の安全や医療の発展の観点から、情報共有も求められる。次にコロナウィルスの拡大の原因として、気候変動が指摘されるなど環境の視点を取り入れた対応も必要である。この人権と環境の視点は、人々の生存を守りまた社会を持続的に発展させるために主流となりつつある。いずれかを選択したり優先させたりするものではなく両方を配慮した政策が必要である。

 このような複眼的な視点が求められる中で、日本はどのような政策を国内外に示していくことができるのか、また示すことが求められるのだろうか。

 第一に、国際的な指針の積極的な活用である。コロナへの対処は、グローバルヘルスとしての課題であり、人権や環境の問題でもある。コロナ禍において、社会における脆弱な人々、たとえば高齢者や障がい者への対処、ヘルスケアへの人々のアクセスの確保、医療従事者をどのように保護するのかなど、国際的な指針が作られている。これら国際的な指針を日本の政策に含めることがグローバルな視点から課題に対処するためには有益である。上述の通り、コロナへの対処は人権問題でありまた環境問題でもある。さらにコロナと共存するニューノーマルの時代において、人権と環境に配慮することは新しいビジネスモデルとして国際社会のスタンダードになりつつある。このような世界規模での新しいビジネスに参入することは、日本社会の生き残りにも関わる。

 第二に、マルティラテラリズムとバイラテラリズムの有機的連携の模索である。特にWHOの役割は重要であるが、アメリカと中国の対立は、WHOにおいても顕在化し、アメリカの脱退さえも案じられる。この対立は、国際社会におけるコロナ対策にとっても大きな損失である。いずれの国とも友好的な関係を維持し、また国際機構を通じての貢献に実績のある日本は、対立する国家間の橋渡しを行える立場にある。

 第三に、日本からのさらなる発信の必要性である。コロナ禍において日本の感染者数が欧州やアメリカと比較して少ないことは、日本国内の検査体制の在り方に対する議論を脇においても特筆すべき事項である。また政府、地方行政、地域における取組みが、他国に提供できる教訓は少なくないはずである。とくに日本は災害への対処、被害からの回復、自治体と共同体の協働については多くの実績がある。

 コロナ禍における、複合的な視点の導入、多国間外交と二国間外交の結びつき、日本の政策についての積極的な発信は、他国や他の地域にとって有益であり、また日本が外交においてよりイニシアチブを発揮する機会を提供するだろう。

望月康恵

もちづきやすえ 関西学院大学法学部教授。国際基督教大学行政学研究科博士後期課程修了(学術博士)。国際連合大学プログラム・アソシエート、北九州市立大学外国語学部助教授、米国コロンビア大学客員研究員などを経て現職。専門は国際法、国際機構論。主要著書に、『移行期正義―国際社会における正義の追及』(法律文化社 2012年)などがある。平和・安全保障研究所安全保障研究奨学プログラム第10期生。