「『陸上総隊』創設で強まる『運用重視』の潮流」

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千々和 泰明(防衛省防衛研究所 主任研究官)

 今通常国会で成立した改正自衛隊法では、「陸上総隊」の創設が盛り込まれた。2013年に策定された防衛大綱では陸上自衛隊の作戦基本部隊等の迅速・柔軟な全国的運用を可能にするため各方面隊を束ねる統一司令部の新設がうたわれ、中期防衛力整備計画において陸上総隊を新編するとされていた。本改正法成立により陸上総隊は年度内にも発足し、中央即応集団は廃止される。

 これまで自衛隊部隊の指揮系統については、海上自衛隊の場合は自衛艦隊、航空自衛隊の場合でも航空総隊の司令部の下に一元化されていたが、陸自に限っては5つ方面総監部を束ねるより上級の司令部は存在していなかった。このことは80年代に陸上幕僚監部で陸自の将来構想検討がおこなわれた際にも議論の俎上にのったとされるが、総隊創設が実現することはなかった。しかし、効率的な全国的運用のためには指揮系統の一元化が望ましいことは言うまでもないし、またそれは陸海空自衛隊の統合運用にも資することになるだろう。

 それにもかかわらず自衛隊の部隊編成としてこれまで上記のような体制がとられてきたのは、自衛隊草創期において陸自のクーデターを恐れる防衛庁内局が「分断統治」を図ったからだとの説もある。しかし重要なのは、総隊創設によって陸自の行政任務や階級構成の問題に波及するだけでなく、いわゆる「18万人体制」を揺るがしかねないことになると長らく懸念されてきたことであろう。つまり防衛政策において運用上のニーズに迅速・柔軟に応えることよりも、まずはマンパワーも含めた防衛力を整備し、かつそれを守っていくことが重視されてきたわけである。

 かつて日本の防衛力の在り方を定めるものとして70年代に導入された「基盤的防衛力構想」の柱は「限定小規模侵略独力対処」概念であった。よく誤解されるが、これはオペレーショナルな意味で限定小規模侵略が発生した場合に自衛隊が独力で対処するという考え方だったのではなく、せめて限定小規模侵略くらいには独力対処できる程度の防衛力を将来的には持つことにしようという、防衛力整備のための概念だったのである。

 しかし冷戦という、いわば日本がアメリカに基地を提供するということ自体に大きな意味があった時代が終わり、安全保障分野における日本の役割が拡大するようになると、そこでの具体的なニーズに応えていく必要性が高まり、防衛政策において「運用重視」の志向が強まった。その前提として、70年代以降の防衛大綱にもとづく防衛力整備の逐次の進展や「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)策定などによる日米間の役割分担の明確化があった。限定小規模侵略独力対処概念は過去のものとなり、基盤的防衛力構想も2010年以降「動的防衛力」、次いで2013年の「統合機動防衛力」という運用重視の考え方に取って代わられた。このことは、近年防衛力を国家安全保障会議(NSC)の下でのアクター間の政策調整や非軍事的施策も含めた政策統合のなかに位置づけることが不可欠となっていることと無関係ではないとの指摘もある。安全保障に関する政策調整・政策統合のなかで、防衛力も運用上の要求という「共通規格」に近づいていったといえる。同じ運用重視の文脈で言うと、2015年に成立した平和安全法制についても、今後はこれに対する現場からのフィードバックが欠かせない。

 日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか、「防衛力整備のための防衛力整備」から「運用上の要求にもとづく防衛力整備」への転換をさらに推し進めていくことが求められる。今般の陸上総隊創設はその具体策の一つとして位置づけられるであろう。

RIPS' Eye No.219

執筆者略歴

ちぢわ・やすあき 大阪大学大学院修了、ジョージ・ワシントン大学留学。博士(国際公共政策)。専門は日米関係、日本の外交・安全保障政策。京都大学研究員、内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)付主査などを経て現職。この間、コロンビア大学客員研究員。著書に『大使たちの戦後日米関係』(ミネルヴァ書房、2012年)、『変わりゆく内閣安全保障機構』(原書房、2015年)。当研究所安全保障研究奨学プログラム第13期生。

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