日米中第2トラック安全保障対話(総括メモ)
高木誠一郎
平和・安全保障研究所は1996年以来米国のパシフィック・フォーラム・CSISと共同で、中国側のパートナーを変えながら、日米中の日米中3国の安全保障問題(広義)の専門家による、いわゆる第2トラックの安全保障対話を実施してきた。その第10回の会議が、国際交流基金日米センターと米日財団の助成により、2008年4月1〜2日、日本財団会議室において行われた。今回の中国側パートナーは中国国際戦略研究基金会であった。
2003年からは参加者に、それぞれの分野における専門家に加えて、将来の3国間対話の担い手となることが期待される「ヤング・リーダー」(YL)を加えたが、今回もその方針は維持された。また、今回は3国以外の視点からの議論を加えるため、韓国と東南アジアからも少数ながら参加を得た。参加者は米国から16名(内YL7名)、中国から13名(内YL9名)、日本から18名(内YL10名)、韓国3名(内YL2名)、東南アジア3名(内YL1名)であり、その他数名のオブザーバーが臨席した。
(1)3国のうちの2国間関係の第3国による分析、(2)朝鮮半島情勢、(3)台湾問題、(4)環境問題、(5)グローバルな戦略環境の評価をテーマとする5つのセッションを設けて、冒頭発表に続いて討論を行った。各セッションの内容を十分に記述する紙幅はないが、印象に残ったことを以下に数点記しておきたい。
会議終了後3国の代表者が集まって総合評価を行い、この会議が意義深いものであり、単発に終わらせるべきでなく、継続されるべきであることで一致した。そして、2009年は中国で、2010年は米国で会議を行うことで基本的に合意した。
なお、以上の会議は参加者を限定し、会議の内容を外部に紹介する時は発言者を特定しないという「チャタムハウス・ルール」に則って行われたが、会議終了後その成果を社会に紹介するために、各国代表1名をパネリストとする公開シンポジウムを実施した。
第1セッション − 日米関係
第1セッションにおいては、日米関係について中国側から冒頭発表があり、今世紀に入り日米同盟が地域的なものからグローバルなものへと転換しつつあるとの見方が提示されたが、90年代に比べるとその議論ははるかに穏健なものであった。ただし、自衛隊の海外派遣については、国連ではなく日米同盟の活動として実施される傾向にあることを指摘し、懸念を表明する中国側の発言があった。日中関係については米国側から冒頭発表があり、現在の日中関係に対する米国の認識の根底に日米同盟をアジアにおける存在の基盤とする判断があるとしながらも、将来に関しては、中国と日本の経済力の比較と中国の対米政策によって米国の日中に対する姿勢が規定され、中国の経済力が日本を凌駕し、親米政策を採るようになれば、日本より中国を重視するようになるという見通しが提示された。討論は、日中協力に対する米国による制約の有無、歴史問題解決に向けての米国の役割、両国共に強国となった状況をいかに管理するか、といった話題をめぐって展開した。米中関係に関しては日本側から、紛争要因と協力要因が混在し、相互の比重が一定しないうえ、しばしば相手国に対する政策をめぐって国内対立が生じるため、極めて複雑な関係となっていることが指摘された。討論では、米中関係の振幅が2001年以降1990年代に比べ小さくなっていること、米中接近が日本の国益を損ないかねないという日本の懸念を解消するために緊密な日米協議が必要であるとの指摘がなされた。総じて、今回は3国関係に含まれる全ての2国間関係が相対的に良好であり、3国間の政府間協議を開始する機が熟しているとの判断が共有された。ただしこの点に関して、韓国の参加者から北朝鮮の将来が3国間協議によって決定されかねないことが指摘され、韓国の国益に対する配慮の重要性が認識された。
第2セッション − 朝鮮半島問題
第2セッション(朝鮮半島問題)は北朝鮮の核兵器開発問題を取り上げた。日本の報告者は、昨年2月の合意の第2段階の問題点と、北朝鮮の非核化、米日との国交樹立、北東アジアにおける経済・エネルギーと安全保障分野における協力に関するより長期的な展望を提示した。米国の報告者は第2段階の措置である北朝鮮の核計画の報告に関して、米国側の認識と一致することが重要であるとの興味深いジレンマを指摘した。中国の報告者は問題が複雑で包括的アプローチが必要なことと、中国の役割が積極的ではあっても限定的であることを強調した。全ての報告者が6者協議の重要性を評価しつつも、その他に多様な2国間および多国間協力を推進することの必要性を指摘したことは印象的であった。
第3セッション − 台湾問題
第3セッション(台湾問題)では、直近の台湾の総統選挙に焦点を合わせた報告と討論が行われた。中国の報告者は、馬英九候補の当選を両岸関係の安定に資するものと評価しつつも、新政権発足前に陳水扁政権が権力の継承を阻害する可能性に対する危惧を表明したが、討論の段階で米国の参加者から台湾の民主主義に対する理解を欠くものと批判された。なお、中国の報告者が、中台対話の条件として中国側が要求してきた「1つの中国」の承認に関して、その解釈は双方で異なって良いとする国民党の立場を明確に容認したことは、中国側の積極性を示すものとして印象的であった。日本側の報告者は馬英九候補の当選の要因として、国民党が台湾化したことの重要性を強調したが、これに対する中国の参加者による批判は、陳水扁政権による対中関係の緊張や腐敗等の要因との比重に関するもので、正面から否定するものではなかった。米国の報告者は、馬英九候補の当選によって希有の戦略的好機がもたらされたとして、中国側が新政権発足直後に台湾人民に対する善意を表明する具体的措置を取ることの重要性を強調し、対台湾ミサイル配備のシンボリックな縮小等を考慮すべきだと主張した。但し、全ての報告者は短期的には経済面での関係改善しか期待できず、軍事的信頼醸成措置や和平協定等には相当の時間が必要であることで一致した。
第4セッション − 環境問題
第4セッション(環境問題)では、米中の報告者が共に環境破壊が健康被害、異常気象、海面上昇、温暖化等をもたらすだけでなく、国家間紛争の要因になりうることを指摘し、多国間協力の重要性を強調した。また、中国の報告者は軍隊による環境破壊の可能性を指摘し、問題解決に軍も貢献しうることを指摘した。日本の報告者は安全保障概念の転換の中に環境問題を位置付け、気候変動問題に焦点を合わせて国際協力の必要性を力説した。
第5セッション − グローバルな戦略環境
第5セッション(グローバルな戦略環境)では、日本の報告者がグローバルな安全保障問題に関わる行為主体が国家に限定されなくなり、問題も多様化してきているという状況にありながらも、伝統的安全保障概念が依然として重要性を失っていないと主張した。米国の報告者は現在のグローバルな戦略環境の問題として、冷戦後における核兵器の役割、世界金融秩序の崩壊の危険性を強調した。中国の報告者は、グローバルな諸問題の全体性と統治の細分化の矛盾を指摘し、国際協力による事態の継続的評価の重要性を強調した。総じて今回の会議では、大部分の報告者がよく準備された中身の濃い冒頭発言をしたことと、中国の参加者が皆英語に堪能であったことにより、充実した対話を行うことができた。これまでの対話に比べると若手の参加者がはるかに積極的に議論に参加したことは好ましい変化であった。また、より根本的な変化であるが、台湾問題のような中国側にとって「敏感な」問題を含めて、全ての参加者が基本的に共通の用語で率直な対話をすることができたことは1990年代半ばと比べると隔世の感がある。
日米中三国安全保障協力会議−ヤング・リーダーズ・フォーラム2008報告
林大輔
ヤング・リーダーズ・フォーラムとは、米・パシフィック・フォーラム・CSISと平和・安全保障研究所が共催する日米中三国安全保障協力会議に組み込まれた、若手参加者による独自の会議である。本フォーラムの目的は、安全保障研究の最前線に立つシニア研究者と共に本会議に参加して知見を拡げるのみならず、若手参加者たち独自で具体的な安全保障の争点に対してより実践的な解決策を協議する機会を持つことで、日米中各国の次世代の学術的・政治的な指導者層同士の知的コミュニティーを形成することにある。
今回開催されたフォーラムにおいては、経済安全保障(セッションI)・環境安全保障(セッションII)・軍事的安全保障(セッションIII)の3つに分かれてディスカッションを行った。筆者が参加したのは軍事的安全保障のセッションIIIであり、ヤング・リーダーの全参加者のうち半数以上が参加するほどの最大のセッションとなった。本セッションでは、アジア・太平洋地域における紛争管理の問題に関心が集まり、国際レベル・政府レベル・市民社会レベルの3つの層において、日米中の政府・非政府アクターおよび我々自身がいかなるコミットメントを提唱し実践すべきかという点について活発な議論が交わされた。本セッションにおける結論としては、これら3つの層を巻き込む多様な調整メカニズムの構築を主眼とする提言を発表するに至った。なお、他のセッションIとIIでも活発な議論がなされた。特に環境安全保障のセッションIIでは、参加者の数こそ少なかったものの、会議の最後において非常に良くまとめられた具体的政策パッケージを発表し、シニア研究者などを含めた聴衆からも活発な質問を頂いた。
さらに、本フォーラムの会議での話し合いにとどまることなく、フォーラム終了後の1ヶ月間にわたり、現在及び将来日米中三国が直面する問題点を見出し、グループ単位でE-mailを通じて協議を進め、その問題点に対してより実践的な提案を作成する予定である。その意味で、日米中各国のヤング・リーダーらは、会議終了後もフォーラムでの経験や繋がりを深める努力をしており、今後の発展が期待される。
日米中三国安全保障協力会議のコア・メンバーである青山学院大学の高木誠一郎先生からは、「このような日米中三国による会議・フォーラムは、一度切りの企画で終わらせるのではなく継続的に行うことが重要であり、ここで培ったネットワークが、トラックIIを通じた今後の三国関係の発展に必ず寄与してゆく」との言葉を頂いた。そのことは、特に我々のような若手研究者・実務家にとっては尚更当て嵌まる意義といえるだろう。