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【邦語報告】 2014年度 陸上自衛隊「総合火力演習」 見学研修(河野瀬 純子)

河野瀬 純子 (一般財団法人 安全保障貿易情報センター 副主任研究員)

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 2014年8月23日、日米パートナーシップ・プログラム第3期生は、富士山の裾野に広がる東富士演習場畑岡地区にて実施された「陸上自衛隊富士総合火力演習」を見学する機会を得た。あいにくの大雨と濃霧の中決行された演習であったが、今年は、2013年12月に閣議決定された防衛計画の大綱で示された「統合機動防衛力」が前面に押し出されたものであり、一国民として、我が国の本土防衛や安全保障について深く考えさせられるものであった。

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DSC_0749.jpg 富士総合火力演習は、毎年、2部構成で実施されており、まず、前段の演習においては陸上自衛隊の主要装備品が実演の形で紹介される。今年の演習は雨と濃霧のために視界が非常に悪く、多くの攻撃が「目標見えず、打ち方やめ!」の命令が下り機動のみの確認となったことは非常に残念であった。しかしながら前段の最大の見せ場として特筆すべきは、10式(ひとまるしき)戦車4両による蛇行射撃であろう。10式戦車は2010年から採用されている高度なネットワークシステムを持つ、いわば花形の戦車であり、蛇行射撃における主砲の自動追尾機能の効果とスピード性能には驚かされるばかりであった。更に、相当なスピードで退行しながら正確に目標物(敵)を攻撃するという難易度の高い作戦が展開され、44口径120mm滑腔砲の威力と目標物を確実に打ち抜く攻撃力には、見学者から大きな歓声があがった。

 次に、後段の演習は、敵の部隊が離島(島嶼部)に侵攻したため、(1)部隊の事前配置、(2)機動部隊の展開、(3)侵入された島嶼部の奪回の3段階において、陸海空の自衛隊が共同で対処するという想定のもと実施された。

 島嶼部に上陸しようとする敵部隊に対し、P-3C哨戒機による洋上における哨戒行動、及びF-2戦闘機、艦誘導弾、多目的誘導弾等による攻撃がなされたが、敵部隊の一部が上陸したため、OH-1観測ヘリコプター、AH-64攻撃ヘリコプター、CH-47大型輸送ヘリコプター、高機動車等の先遣部隊が展開された。

AH-64攻撃ヘリコプターの飛行性能及び攻撃力は目を見張るものがあり、有事におけるヘリコプターの有用性を再認識することができた。島嶼部の奪還には、攻撃部隊の上陸が必須であるが、今後オスプレイが配備されれば、こうした事態に対応する輸送手段としては大きな機動力を発揮することになるであろう。

島嶼部の奪回では、偵察警戒車、軽装甲機動車、偵察用オートバイによる偵察活動、特科火砲による攻撃準備射撃、対戦車誘導弾及び74式戦車による射撃支援、地雷原処理用ロケット弾による障害処理、10式戦車・89式装甲戦闘車による攻撃前進、特科火砲・迫撃砲による突撃支援射撃、90式戦車による突撃、そして最終段階では空地一体となった戦果拡張が展開された。一連の陸海空の畳み掛けるような攻撃は、自衛隊の高度な機動力、正確な攻撃力を認識できる最良の機会であった。
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 昨今、中国による東シナ海への進出等、我が国の安全保障を取り巻く環境変化を踏まえ、島嶼部の防衛が喫緊の課題となっている。防衛省は、来年度予算の概算要求では過去最大規模となる5兆545億円を計上し 、オスプレイやイージス艦、無人偵察機のグローバルホーク等の装備品を購入する予定だという(2014年9月現在)。こうした新たな防衛装備品の配備についても、今回の後段の演習を見学したことにより、その有用性を理解することができたことは大きな収穫であった。他方で、防衛装備分野においては、厳しい財政的制約のもとでの研究開発・調達・維持・整備等の、「装備品のライフサイクル」全般を通じた合理的な管理体制を構築する必要性についても考えを巡らせる必要がある。2015年度内に新設予定の「防衛装備庁」にも大いに期待を寄せているところであるが、民生品や民生技術の活用という点においては、民間企業や民間研究機関の英知も結集し、我が国の確実な防衛力整備を考えていく必要がある。総合火力演習を見学したことにより、我が国の安全保障や防衛政策において、自らの貢献可能なことは何か、その点についても再認識させられるものがあり、非常に意義深い1日となった。

 最後に、このような貴重な機会を与えてくださった平和・安全保障研究所、国際交流基金日米センター、そして現地において雨の中演習の解説をしてくださった陸上自衛隊の樋口二尉、研修の企画と運営を行ってくださった平和・安全保障研究所の研究員の方々に深く御礼を申し上げたい。今後も、こうした貴重な体験から多くのものを学びながら、日米パートナーシップ・プログラムでの研究に精進していきたいと考える。

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【英語報告】 2014年度 陸上自衛隊「総合火力演習」 見学研修(田代 和也)

Dr. TASHIRO, Kazuya
(Visiting Researcher, Osaka School of International Public Policy of Osaka University)

Firepower in “Fog of War”
DSC_0748a.jpg  Carl von Clausewitz, a remarkable military theorist, once said, “Fog can prevent the enemy from being seen in time, a gun from firing when it should, a report from reaching the commanding officer.” Fellows of Japan-U.S. Partnership Program, who attended the rehearsal of the Fuji Firepower Review on 23 August, must agree on his point with bitter experiences. On the day, the thick fog blotted out everything on the maneuver field from our sights. Furthermore, we needed to bear up under misfortunes when strong wind had brought heavy rain to us. Because of the poor visibility, there was nothing but to cancel some shooting practices by infantry fighting vehicles and anti-tank missiles. Notwithstanding, we learned important insight into firepower in the context of modern warfare.

  The Fuji Firepower Review is the exhibition to demonstrate the effects of the firepower with modern weapon systems by the Ground Self-Defense Force (GSDF). This review was divided into two parts. The first part put heavy and light firearms to live tests individually. The second part was to exercise demonstrations in which the GSDF launch offensive operations against enemy forces attempting to capture one of the Japanese islands. In this review, we could see nearby live-shell shooting with almost every type of weapons, such as rifles, mortars, artilleries, tanks, and attack helicopters.

  Field Howitzer 1970(FH70) fired at distant targets successfully. FH70s, which have long shooting range and are able to shoot indirect fire, killed the targets under low visibility. In shooting indirect fire artillery’s crew did the weapon does not see the target, but received tactical intelligence by setting proper elevation and deflection from an observation post. Therefore, it was not necessary for crew of FH70s to be troubled by low visibility since an observation post sent tactical information. On the other hand, Type 87 Chu-MAT and Type 96 Multi-Purpose Missile System designed for direct fire could not destroy their targets.

DSC_0750.jpg  The firepower of Type 10 main battle tank demonstrated characteristics of networked tank warfare. Type 10 has a networking communication system to share tactical intelligence among tanks of a platoon. Type 10 has capability to identify the locations of the enemy tanks, receiving information from another tank. With this technology of Type 10, its slalom fire, a kind of combat fire, can maneuver to avoid enemy fire. In this exhibition, the tank platoon of Type 10 was divided into two teams. One team carried on reconnaissance, and another team performed slalom fire perfectly, communicating with each other tactical data on enemy location with radio communications.

  Standard understanding on a nation’s military capability is that military performance is determined by the number of countable platforms of firepower, such as individual infantrymen, tanks, and artilleries, and that the superiority in firepower of those platforms also contributes to military outcome. From this perspective, firepower plays a central role to determine the military capability. However, our observation at Fuji suggested that firepower might be useless under imperfect information, even though military forces were heavily equipped with firearms. Without intelligence on the location of a target, it is impossible to aim and fire at their weapons effectively in military operations. The Fuji Firepower Review showed us that intelligence is crucial to military effectiveness under the “fog of war.”

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2014年度「沖縄研修」レポート(榎本 浩司)

榎本 浩司(一橋大学大学院 法学研究科 博士後期課程)

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 2014年11月に行われた沖縄県知事選挙では、米軍普天間基地の辺野古移設問題が争点となり、選挙の結果、基地移設に反対を掲げた前那覇市長の翁長雄志氏が当選を果たした。ちょうどその1年前に仲井真弘多知事(当時)は辺野古の埋め立てを承認し移設計画を進めてきたが、知事選を通して移設に反対の民意が突きつけられたことで、沖縄の米軍基地問題は新たな局面に入ったといえる。翁長新知事の下での県政がスタートして3ヶ月となる2015年3月4日からの3日間、日米パートナーシッププログラム第3期(通算第17期)奨学生は沖縄研修として、沖縄安全保障セミナーにおいて第一線の研究者の議論から学ぶとともに、最前線で実務にあたる関係者を訪問して意見交換を行う機会を得た。本研修においては、2日間をかけて米国海兵隊普天間航空基地、キャンプ・シュワブ、沖縄防衛局、沖縄知事公室地域安全政策課と、航空自衛隊那覇基地を訪問した。

東アジアの安全保障の変化と在沖米軍基地問題

 前回の本研修は2013年2月末から3月頭にかけて実施されたが、その後約2年の間にも東アジアの安全保障環境は大きく変わった。本論に先立ち、以下に2013年から2015年にかけて沖縄を含む南西方面で起こった東アジアの安全保障に関わる出来事を概観する。
「活発化する中国の活動」
 2012年9月に政府が尖閣諸島をいわゆる「国有化」して以降、東シナ海周辺海域および空域における中国の活動は活発化してきた。同年12月の中国国家海洋局所属のY-12型輸送機による尖閣諸島周辺空域での領空侵犯を始めとする度重なる領海・領空侵犯に加え、2013年1月には東シナ海において中国海軍による海上自衛隊の護衛艦に対するレーダー照射が行われた。また、同年11月には中国政府は東シナ海における防空識別区(ADIZ)を設定するなど、その活動域をより東へと拡大させている。また、2014年に入ってからは中国軍機Su-27等による自衛隊機および米軍機への異常接近を繰り返す一方で、中国は東シナ海においてロシアと合同で海軍の軍事演習も行っている。
「日本の対応・政策」
 こうした中国の活発な活動に対し、領空侵犯を行った早期警戒機や爆撃機を含む航空機に対する我が国の緊急発進の回数は、2013年には415回と5年前の13倍にも上っている。また、監視船や漁船による領海侵犯に対しては、海上保安庁が石垣島を拠点に巡視船を運用して対応にあたってきている。不測の事態を招きかねない一連の活動に対し、政府は外交ルートでも繰り返し厳重な抗議を行ってきている。
DSC_1284.jpg「米軍基地問題に関する主な動き」
 2013年3月、政府が辺野古沿岸部の埋め立て申請を沖縄県に提出し、同年12月に仲井真沖縄県知事(当時)がこれを許可した。その後辺野古沖では埋め立てに向けたボーリング調査が進められている。普天間基地においては同年MV-22オスプレイの追加配備が行われ、現在の24機体制となった。
「安全保障環境が変化する中での在沖米軍基地問題」
 本研修では、第3回沖縄安全保障セミナーとして沖縄県立博物館において開催された公開シンポジウム「東アジアの平和と沖縄の役割」へ出席した。シンポジウムでは森本敏元防衛大臣、蓑原俊洋神戸大学准教授、高木誠一郎国際問題研究所顧問、我部政明琉球大教授が登壇し、それぞれ日米同盟、中国、沖縄の視点から、現在の東アジアの安全保障環境を踏まえて、沖縄の在日米軍基地問題が論じられた。全体を通して、尖閣問題を抱え東シナ海周辺において近年活動を活発化させている中国との関係についての議論に多くの時間があてられた。近年の東シナ海における防空識別区の設定や、艦船と航空機による活動などへの現在の日本の対応を評価する一方、今後も日本は中国からの挑発に乗ることなく法執行機関による慎重な対応を行い、法執行機関と自衛隊および米軍の組み合わせによる抑止を継続していくことが重要であるとの指摘がなされた。周辺国との領土問題に関わる活動への対応は、一歩間違えば地域全体の安全保障を損ないかねない極めて繊細な問題であり、中国の活動が活発化する中でいわゆるグレーゾーン以下の事態に対する警察権での対処はより重要になってきている。沖縄は自衛隊と米軍にとってだけでなく、南西地域の警備活動を行う法執行機関である海上保安庁が展開する上でも重要な位置にあることから、今後、沖縄と南西地域の安全保障問題を考える上で、海上保安庁の活動についても重要な要素として学んでいく必要があるだろう。シンポジウムでは、沖縄の米軍基地問題に関し、基地が沖縄本島から一歩でも外に出ると抑止の効果がなくなってしまうという訳ではないものの、依然沖縄の地政学的重要性は特別なものであり、その価値はオスプレイの登場によってさらに高まったとの議論がなされた。同時に、基地問題を考える際には次の世代にどのような環境を残すのかという視点が見落とされがちであるとの指摘もなされた。

2014年知事選と沖縄県内の民意の変化

DSC_1437.jpg 本研修では、翁長新知事の下で新たな県政が動き出した沖縄県庁にも伺い、沖縄県庁知事公室の地域安全政策課でお話を伺った。同課は、全国でも数少ない地方自治体が有する安全保障問題についての研究機関である。
「沖縄県民の中国に対する意識の変化」
 地域安全政策課が毎年発行している「地域安全政策調査研究報告」では、2012年度より毎年「沖縄県民の中国に対する意識調査」を実施し、その結果を分析している。その中で興味深いのは、2014年度の調査においては中国に対して良くない印象を持つと回答した人の割合が2012年から2013年にかけて以上に増加し、その割合は全国を対象とした同様の調査結果と比べても高くなっている。その理由としては歴史問題や軍事力の増強、尖閣諸島を巡る対立の存在などの理由が増加しており、こうした結果は調査期間直前に行われた中国による防空識別区の設定も影響していると分析されている。さらに、沖縄での意識調査において将来的に日中間で軍事紛争が起こる可能性があると回答した割合は全国調査の倍以上となっており、これは地理的に沖縄が日中対立の前線に位置し、また普段から基地の存在を意識する沖縄県民の危機感を表しているものと分析されている。
「米軍基地に対する意識」
 2014年度の意識調査では、中国に対する印象が悪化したことも影響してか、米国により親近感を感じるとする県民の割合が同年の全国調査結果および前回の沖縄での調査結果よりも高くなっている。しかし米軍基地の存在に関しては、今回の訪問で、沖縄県民の間に在日米軍基地の存在を経済発展の阻害要因と見る意識が高まってきているという話を伺った。その背景として、復帰直後は県内の経済基盤が十分に整っていなかったために基地経済に依存する割合が高かったものの、現在では基地への依存度は大きく低下している。その一方で、社会インフラの整備が進み経済基盤が整ってきた現在では、米軍基地の存在はさらなる経済発展に必要な交通網の整備や産業用地の確保を妨げる障害となっていると言われる。実際、那覇新都心を始めかつて返還された都市部の地域が開発され、その結果、返還前以上の経済効果を生み出している例も出てきていることから、基地返還と跡地の開発が経済発展に資すると見る考え方は自然なものと言えるだろう。

安全保障のコスト負担−公平性をめぐる議論と政治的解決−

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 沖縄の基地問題について議論する際、その過度な基地負担を表す数字として、日本の国土面積の0.6%に過ぎない沖縄県に、全国の米軍が常時使用できる専用施設と区域の74%が存在するというものが示される。そしてわずか1200平方キロの沖縄本島の18%を米軍基地が占めているということは、数字の上でも驚きであったが、今回の訪問で普天間航空基地とその移設が予定されているキャンプ・シュワブを訪れ、沖縄防衛局から嘉手納飛行場の遠景を望んだことを通してその広大な敷地の存在感の一端を垣間見た。
 本島の中でも人口の多い中南部にそのほとんどが集中している米軍基地は、先述のとおり経済発展を阻害する存在として県民からは大きな負担として受け止められている。他方、安全保障の側面から見た場合、米軍のプレゼンスの効用は日本全体に対するものであると言える。このようなコスト負担の対象と効用の対象の非対称性がコストを負担する側に不公平感を産んでおり、その感情にはまた、過去の歴史に根ざした本土の人々に対する複雑な感情と米軍に対する複雑な感情とが混ざり合っているように感じた。
「基地のリスクと安全保障上の疑問」
 沖縄県民にとって基地の存在は経済面から負担であるだけでなく、安全面からも潜在的なリスクという負担になっているといえる。これは第一には、2004年の沖縄国際大学構内への米軍ヘリ墜落事故を始めとする航空機等による事故である。第二には、有事の際に米軍基地が攻撃を受ける可能性というリスクである。沖縄か本土かに関わらず、基地が存在する場所においては有事の際に基地周辺住民の生命と財産をいかにして保護するのかという問題について基地のない土地とは異なるレベルで向き合うことが必要となろう。本研修においては、具体的な事態を想定した基地周辺の国民保護計画等に接することはなかったが、今回の研修をきっかけに今後こうした取り組みについても学んでいきたい。基地攻撃という潜在的なリスクについては、安全保障上の観点からも、昨年ジョセフ・ナイ・ハーバード大学教授が、中国の弾道ミサイル能力が向上によって沖縄がその射程に入ることで米軍基地の脆弱性を高まり、これまで米軍基地を沖縄に集中させてきた理由であった地理的優位性が低下していると指摘している。このこともまた、中国の活動に起因する安全保障環境の変化によるものであるが、今後も米軍基地が(一定期間でも)沖縄に存在するのであれば、政府に対して本島に基地を設けることの合理的な説明を求める声が高まることも考えられる。
「本土と県内の論点のズレ」
 本研修を通じて、政府・本土と沖縄との間での議論のズレのようなものがあることも感じた。政府・本土側は安全保障と地政学の観点から沖縄に基地があることの重要性を説きつつ、焦点を普天間基地に隣接する住宅街等の被っているリスクの除去という点に当て、ヘリ基地機能を辺野古沖へ移設することでの解決についての賛否に議論が進んでいる。他方、沖縄側としては普天間基地の危険性除去の前に、そもそも沖縄県全域にある基地の過重な負担が本土との間で不公平なコスト負担であるという点について議論がなされる。
 初日の沖縄安全保障セミナーでも、沖縄の基地問題は軍事的・安全保障的側面からのみ捉えるのではなく、政治の問題として捉えて両者の間で和解を探ることでしか解決は難しいのではないかとの指摘がなされた。沖縄に基地を置くことの合理性を説明する上で安全保障の議論は必要である。しかしそれは蛸壺の技術論に陥ってはいけないし、また、安全保障上の論点を時間を掛けて説明すれば沖縄側の納得が得られると考えるのもおそらく誤りであろう。実際に基地の存在によってリスクを負いコストを負担する沖縄の人々が感じてきた不公平感をいかにして解消するか。そのためにはまず
 東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中で、日本国民が安全かつ安心して暮らせるよう取り組むことは、国としての最重要課題の一つである。他方でそのためのしわ寄せが一部の国民の負担となり、結果的に彼らの安心と安全が脅かされることは避けなければならない。安全保障によって生活の安全と安心を確保するためには大きなコストがかかることを意識し、そのコスト負担の配分の問題について、本土で(在沖米軍を含む抑止力の力も借りて)安全かつ安心して暮らすことができている自分たちが、その問題を解決しなければならない当事者であるということを改めて意識することとなった。

謝辞

 今回、研修期間を通して我々奨学生にご指導を頂いた高木誠一郎先生、西原正先生、土山實男先生と、村井友秀先生ほか奨学プログラムの先輩方と、1年以上前から本研修のアレンジにご尽力頂いた平和・安全保障研究所の森﨑研究員、安富研究員、渡辺研究員助手、本プログラムにご後援を頂いている国際交流基金日米センターの皆様には本研修が大変実りあるものとなったことを奨学生一同深く感謝申し上げる。また、沖縄での研修プログラムにおいては、特別のご配慮を頂いたロバート・エルドリッジ氏(米国海兵隊政治部次長)、島袋吉和氏(元名護市長)、井上一徳氏(沖縄防衛局長)、沖縄県知事公室地域安全政策課の皆様と、上ノ谷寛氏(航空自衛隊南西航空混成団副司令)に深く御礼申し上げたい。

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【邦語報告】2015年度「ワシントンD.C.研修」レポート(永森 沢吾)

永森 沢吾(外務省 国際法局 条約課 課長補佐)

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1.研修の概要

 今般のワシントンD.C.研修では,3日間の滞在期間(日米間の移動日を除く。)中,昼食(ワーキングランチ)及び夕食も含め,計14組(19名)の有識者(政府関係者を含む。以下,同じ。)と面会し,それぞれ約1時間から1時間半の意見交換を行う機会に恵まれた。これら有識者の専門分野は,日米関係はもちろん,米中関係から米ASEAN関係まで多岐にわたり,また,政治的立場も保守からリベラルまで多様な構成であった。意見交換(基本的に,冒頭10分~15分間の先方プレゼン後,質疑応答。)は専ら英語で行われたが,いずれの面会においても奨学生側から多数の質問が提起され,活発な議論が行われた。

2.意見交換の概要

05a_Wa.DC_EWC.png 意見交換のテーマは,日米関係・日米同盟を中心にしつつ,東アジアの安全保障全般に及んだ。軍事的な側面のみならず,経済,歴史認識,日米両国それぞれの内政等,幅広い文脈から安全保障の議論がなされた。多くの有識者から,日米関係の現状について肯定的な見方が示されるとともに,変化する東アジアの安全保障環境及びこれを受けた米国のリバランス政策の中で,日米同盟により大きな役割を期待する旨の発言があった。この関係で,複数の有識者から,地政学的な観点が重要である旨の発言又は地政学を前提とした情勢分析が聞かれた点も印象的であった。

11b_Wa.DC_CSIS.png 日本の新たな平和安全法制については,同法制が依然として日本の国会で審議中であったこともあり,いずれの有識者も慎重な物言いに終始したが,安全保障分野における日本の更なる積極的な貢献に対する期待とともに,自衛隊の統合運用能力や日米間の共同作戦能力の向上が重要であるとの指摘が相次いだ。また,東アジアの安全保障環境を安定させる観点からも,ともに米国の同盟国である日本と韓国との協力強化が期待されるとして,歴史問題を含む日韓関係への高い関心が示された。

 なお,日米関係を専門とする有識者からは,米国における日本のプレゼンスについて,一時期よりは改善しているとの楽観的な評価が示される一方,留学生数の減少による長期的な影響を懸念する旨の指摘があった。


3.感想

 上述のとおり,短い日数にも関わらず,非常に多くの,かつ多様な有識者と意見交換の機会を持つことができたことは,様々な角度から日米関係・日米同盟を俯瞰する上で極めて有用であった。有識者は,いずれも一度は耳にしたことがある著名な方々であり,個別の意見交換が密度の濃いものであったことはもちろんであるが,それにも増して,同じテーマについて角度を変えつつ集中的に議論することにより,これらの内容が有機的に結合し,大変質の高いブレイン・ストーミングになったと感じた。加えて,奨学生側もそれぞれが異なる専門分野・経験を持ったメンバーであることから,面会の間の移動及び待ち時間の際の奨学生間の意見交換も,互いにとって良い知的刺激となった(同様の感想が複数の奨学生から聞かれた)。
08b_Wa.DC_CRS.png 意見交換の場では,当方参加者から,中国の台頭,平和安全法制,歴史問題,沖縄基地問題等多岐にわたる質問が提起され,活発な意見交換が行われたが,総じて米側有識者の関心が高いと感じられたのは,南シナ海情勢及び日韓関係であった。また,いずれも東アジア情勢に焦点を絞ったやりとりであったが,先方の発言の端々からは,米国の東アジアにおける安全保障戦略が,あくまで,全世界を視野に入れたより大きな戦略の一部であるという,(ある意味では当然の)認識が窺えたことが印象に残っている。自分も含め,ともすれば東アジアの出来事にのみ注意を向けがちな当方参加者との間で,一種の認識のずれが観察されたこと自体,米国という「グローバルパワー」を同盟国とすることの利点と難しさを示唆しているようで興味深かった。

 また,この場を借りて,事務局の方の入念な準備により,現地での日程アレンジが非常に効果的なものであったことに感謝申し上げたい。参加した奨学生側にとっては,意見交換の場における緊張感と相まって,知的持久力の限界を試される思いであり,夜,宿泊先に戻ると疲労困憊でベッドに倒れ込む毎日であったが,全米はもとより全世界から優秀な研究者・実務家が集まるワシントンD.C.の特性を余すことなく生かした研修日程であったと思う。個人的にも,業務の間を縫って,夏期休暇を利用して参加させていただいたが,それに値する3日間であった。

(本稿は外務省見解を代表するものではありません)

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【英語報告】2015年度「ワシントンD.C.研修」レポート(土屋 貴裕)

Dr. TSUCHIYA, Takahiro
(Senior Visiting Researcher, SFC Research Institute of Keio University)

1. Summary of the Summer Study Tour

02b_Wa.DC_CSIS.png  During the recent three-day Washington DC tour, we were blessed with the opportunity to meet with 14 groups (19 individuals) of experts (including government officials) for about 1–1.5 hours each to exchange ideas. These people were experts in a wide variety of fields, including everything from US–Japan relations to US–China relations to US–ASEAN relations; the participants spanned the political spectrum from conservative to liberal. The exchanges, which consisted of one-way presentations for the first 10–15 minutes and later followed by Q&A sessions, were held primarily in English. At each meeting, the scholars presented numerous questions that allowed for lively discussions.

2. Summary of exchange views

  The theme of the meetings was primarily US–Japan relations and the US–Japan alliance, but it also delved into the area of general security in East Asia. In addition to discussing the military perspective, the discussions covered a wide range of topics related to security that included economics, historical awareness, and the internal politics of the US and Japan. Notably, many experts talked about China’s advance into the South China Sea and cybersecurity.

13a_Wa.DC_Sigur Center.png  The US has not forgotten China’s presence in the world economy in recent years, and the country deeply understands that it is difficult to square accounts as the P5, the permanent members of the United Nations Security Council. However, we realized that the American point of view towards China is gradually becoming more severe concerning the South China Sea and cyber issues.

  Also, with regard to rebalancing US policy and the changing security environment in East Asia, many experts expressed a positive view regarding the current state of US–Japan relations, and I was left with the strong impression that they felt that the US–Japan alliance would play a large and positive role.


3. A sequel to the program: The United States - China Summit

  Our visit coincided with a Chinese military parade, and at the end of the same month, President Xi Jinping visited the United States for a US–China summit meeting. China wanted to obtain a statement from the US regarding constructing a “new model for a relationship between superpowers,” but President Obama did not mention this, and China’s hopes in this regard were crushed.

  As we can see, recent demonstrations by China regarding its space – land, sea, air, space, and cyber – have brought concern from the international community. Aside from its history of geographic border disputes, an increasing number of recent attempts have been made at maritime and aeronautical re-definition.

09b_Wa.DC_NDU.png  Regarding the South China Sea issue, a code of conduct was agreed on to avoid accidental collision of aircraft from the two countries’ militaries. Before President Xi’s visit to the United States on September 18th, US and Chinese defense authorities agreed to a Code of Conduct and signed the relevant documents.

  However, as if timed for the US visit, a Chinese fighter SH-7 came abnormally close (about 80miles) to an RC-135 above the Yellow Sea. Various interpretations have been made regarding Chinese intent. (It is therefore important to clearly understand Chinese policy and policymaking mechanisms.)

  In addition, President Obama expressed serious concern regarding Chinese military base development involving the landfill of reefs, whereas President Xi simply described this as “an integral part of China’s sovereign territory”; he conflict therefore remains.

  On the other hand, with respect to industrial espionage activities through cyber-attacks, US and Chinese leaders agreed that the two governments will not support or run these activities. They also introduced a biannual ministerial consultation for information sharing, and they agreed to cooperate on cyber-crime investigations with a decision to hold the first meeting before the end of the year. President Obama stressed that “The question now is: Are words followed by actions?” at a press conference after the talks, and this did not become a forum for the United States to unilaterally blame China.

  Unfortunately, however, contrary to China’s emphasis on a cooperative attitude, there has not necessarily been a solution, and it cannot be said that sufficient means to avoid military clashes have occurred. This is because the agreement on cyber-attacks has been limited to issues pertaining to industrial espionage. If you look at the US congressional report released in May of this year, it is clear that US concern regarding Chinese cyber-attacks is focused on those against military operations networks. The potential for clashes between the US and China remains.

  I believe that detailed fact-finding will lead to an understanding of real conditions without being one-sided and swayed by the risk or chance of China causing more problems.

4. Impressions and Acknowledgments

12_Wa.DC_State Department.png  As previously mentioned, even though it was a very short tour, we had the opportunity to exchange ideas with varied experts, and it was extremely useful to discuss issues pertaining to US–Japan relations and the US–Japan alliance from a variety of angles.

  The experts, each of whom is famous, offered an intense exchange of views. In addition, the conversations concentrated on the same theme from many different angles, making them organically bound. I felt that the angles of discussion converged to create extremely high-quality brainstorming sessions. In addition, the scholars all had different specialty fields and varied experiences, so the idea exchanges between meetings was mutually beneficial and intellectually stimulating.

  We would like to thank the experts for providing us with this opportunity to exchange ideas. We would also like to take this opportunity to thank those in the office whose careful planning made this trip extremely effective.

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