日印連携を強化せよ

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長尾 賢 (海洋政策研究財団 研究員)

 2012年12月、インド海軍参謀長ジョシは、南シナ海においてインドの国益が脅かされた場合には、インド海軍の艦艇を派遣する用意がある、と述べた。明らかに中国を念頭においた発言である。インド高官の発言としても一歩踏み込んだものとして注目される。インド海軍が東南アジアに来ることは、日本の安全保障にとってどのような意味をもつか。三点あるといえる。

 まず、インド洋・太平洋地域においてインドの力が必要とされていることである。特に、冷戦後、米海軍の艦艇数が減り、理論上、力の空白が生まれていることは注目すべきである。例えば満載排水量3000トン以上の水上戦闘艦でみれば、1990年に230隻であったが、2013年には101隻に減る。一方で、中国海軍は、1990年には16隻だったものが40隻に増えている。つまり、昨今の中国の強圧的な態度「俺は強い」と言わんばかりの態度は、アジアのミリタリーバランスを背景にしたものである。アジア安定のためには、日本やインドのような国が、力の空白を埋める必要がある。

 特に東南アジアについては、よりインドの力が必要とされている。東南アジアが主要なシーレーン上にあり、資源もあって戦略的に重要な地域であるにもかかわらず、みな小国であり、十分な軍事力を整備できていない。しかも大国に囲まれていて、特に中国からの軍事的な圧力にさらされつつある。東南アジア諸国は一丸となるべきで、軍事的にもより強くならなければならない。実際、東南アジア各国は潜水艦部隊や空軍を増強中である。インドは、ベトナムの潜水艦部隊を始め、マレーシアの空軍、タイの空母、インドネシア軍等の訓練を担ってきた。シンガポールへは訓練・兵器開発施設の貸し出しもし、ミャンマー等への武器輸出の実績もある。東南アジアの安全保障に深くかかわってきたのである。東南アジアからすれば、インドは有力な支援者となる。

 さらに、最も重要な要素として、インドがアメリカの友好国であり、強力な海軍力をもつことがある。その一例は演習の数で、米印は10年で60回以上の共同演習をしている。米印が同盟国ではないことを考えれば異例の多さである。インドの海軍力については急速に増強中といえる。上述の満載排水量3000トン以上の水上戦闘艦数でいえば、1990年の14隻から2013年には26隻になると予想される。空母も原潜も1隻ずつ保有しており、運用実績も長い。しかも今後100隻近い艦艇を増やす計画で、内45隻は建造中である。インドの計画は常に遅れるが、近い将来、強い海軍が登場することは間違いない。

 以上から、上記インド海軍参謀長の発言は、アメリカの友好国であるインドが、特に東南アジアの安全保障においても、より積極的な役割を果たすことを表明したもので、日本の安全保障にとっても心強いものなのである。

 昨今、日印の連携は強化されつつある。日印次官級2+2対話も始まり、日印海軍共同演習JIMEX(Japan India Maritime Exercise)も2012年から毎年行われることになり、日本は、インド洋海軍シンポジウム(IONS:Indian Ocean Naval Symposium)海軍会議にも参加するようになった。また、インドへのUS-2救難飛行艇の輸出も推進しているところである。今後もこの流れを進め、米豪と共に、東南アジア支援を念頭に置いた、より積極的な政策を推進するべきである。具体的には、例えば、日印越三国戦略対話、日印インドネシア三国戦略対話といった会議を推進し、東南アジアの安全保障上のニーズを掘り起こし、支援を調整するメカニズムが必要とされよう。

RIPS' Eye No.161

執筆者略歴

ながお・さとる インドの軍事戦略を研究し、2011年、学習院大学より博士号取得。2012年より海洋政策研究財団研究員。防衛省、平成18年度「安全保障に関する懸賞論文」優秀賞受賞。

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