日米越3カ国による協力枠組み作りを

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安富 淳 (平和・安全保障研究所 研究員)

 近年のベトナム政治・経済改革の中、日越・米越の二国間協力関係はそれぞれ急速に発展しているが、日米越3カ国による協力関係の構築については、そこから得られる戦略的利益にもかかわらず目立った動きが見られない。

 日米越3カ国協力による利益の一つは南シナ海における海洋安全保障問題に対する取り組みであろう。南シナ海における中国の急速な軍事的プレゼンスの増強と強硬な外交政策は、南沙諸島の領有権を巡り対立を続けるベトナムや日米を含む各国の南シナ海における船舶の自由航行に対する懸念事項となっている。
日本はベトナムの港湾改修やベトナム海軍の沿岸警備能力や災害救援能力構築の支援等を通じて、ベトナム海軍の能力を支援することが可能であり、中国に対し牽制に繋がる。現在深刻な軍事費削減に直面しリバランス政策を進める米軍にとって、日本のこのような支援は米国のアジア安全保障政策を財政面からも支援することを意味し日米同盟の強化に貢献する。

 また、ベトナムは環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加に向けた交渉を実施しており、加盟までには多くの条件をクリアする必要があるものの、TPPへの参加が実現すれば関税撤廃による輸出増加やベトナム国内への投資の増加など3カ国間の経済協力が活発になることが期待されている。更にベトナムは、TPPの最大加盟国である米国との関係を深化させることにより、対中関係をにらんだ政治的影響力を増幅させる効果を期待している。

 このように日米越3カ国協力はその戦略的価値や経済的潜在力は高く互恵関係が成り立つ。同時に、実現に向けた課題はその期待値と同等に大きく、今後具体的な協力関係を構築していくためにはなお努力と時間を要するものと考えられよう。

 それでは我が国は、日米越3ヵ国協力関係の強化に向け、今後具体的に何ができるであろうか。第一は、ベトナム軍の災害救援・人道支援(HA/DR)能力構築に対する支援である。ベトナムは洪水・サイクロン被害などの自然災害による被害が多いが軍による救援能力の不足が指摘されている。我が国は、とりわけ軍医療、通信、運送、捜索救難(SAR)などの分野でその実力を発揮できるであろう。HA/DR能力構築に努める我が国がベトナム軍に対しこのような支援を提供することは、リバランス政策の一つとして東南アジア諸国の軍のHA/DR能力や海上監視能力などのキャパシティ・ビルディング(能力構築)を促進する米軍にとっても利害が一致する。更に、協力分野が人道支援であることからベトナムにとっても中国から批判の口実を与えないという利点がある。この様な理由から我が国はHA/DRに対する協力を強化すべきである。

 第二に、ODAを使用した沿岸警備能力向上に対する支援である。我が国は2006年にインドネシアに対し海賊・海上テロ対策用として巡視船艇3隻を供与した。また、南シナ海のスカボロー礁の領有権を巡り中国と対立しているフィリピンに対しても、類似の支援を検討中である。ベトナムに対しても、9月15~18日に小野寺防衛大臣が訪越した際、ベトナム側から巡視艇供与に関する要請を受け、近い将来同様に検討が開始されよう。これに加え、ODAを利用し港湾整備や巡視艇等の整備技術に対する支援によってベトナムの沿岸警備能力を高めることが可能である。

 第三に、核エネルギー分野の支援が挙げられる。急速な経済発展を遂げるベトナムは現在電力不足が深刻であるため、高度に発展させてきた我が国の核エネルギー技術を供与し、また東日本大震災での原発事故で得た教訓も生かし核エネルギーに対する安全対策技術を共有することが可能である。更に核セキュリティー対策に関する知見や技術を日米越で共有することで、ベトナムの核エネルギー分野における安全を強化することが可能である。

 我が国はこのような日米越3カ国による協力体制が有効な戦略であることを再認識し、具体的な協力枠組み作りを急ぐべきである。

RIPS' Eye No.171

執筆者略歴

やすとみ・あつし ベルギー・ルーヴェン大学社会科学博士。平和・安全保障研究所研究員。

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