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第10回シャングリラ・ダイアログ(アジア安全保障会議)に
参加して
西原 正(平和・安全保障研究所 理事長)
会議は成功
6月3−5日にシンガポールのシャングリラホテルで第10回シャングリラ・ダイアログが開催され、出席する機会を得た。これはロンドンに本部をおく国際戦略問題研究所(IISS)が主催し、アジア安全保障会議ともいわれる会議である。アジア太平洋地域の国防相、国防関係高官(文官、将校)と民間専門家(学者、シンクタンク研究者、退役軍人、ジャーナリストなど)を招いて、地域の安全保障問題を議論する会議である。出席者リストによれば、今回は27カ国から国防相15人、副国防相クラス10人、外相3人、首相1人、副首相2人、そして全体で350人を超す参加者となる大会議であった。
この会議の特徴は、表と裏があることである。表の方は、地域の国防大臣を招き、それぞれの国の国防政策を紹介してもらい、民間専門家が質問を出して、政策への理解を深めるというものである。国防大臣自ら国防政策を紹介するので、参加者の関心と満足度は高い。裏の方は、国防相レベルの二国間の協議が静かに別室で行われることである。どの国が二国間協議したのか、自ら公表しない限りは当事国以外は分からないという、当事国にとっては一大利点がある。(今回、北澤防衛相は8カ国との二国間協議をこなした。)日本はこうした利点があって、国防相の参加度は高く、したがって会議はいろいろな意味で成功してきたといえよう。
米中の国防大臣が揃う
もちろん、会議の魅力の一つはゲーツ米国防長官の出席である。地域で最も大きな影響力をもつ米国の国防長官が何を話すかは最も注目されるところで、いつものことであるが、会議の冒頭で講演する。ゲーツ長官は、米軍は西太平洋でのプレゼンスを継続する、中国の軍事力増強に警戒する、サイバー攻撃への対抗措置を講じるなどと講演した。
温厚なゲーツ国防長官や北澤防衛相とは対照的に、中国の梁光烈国防相は陸軍大将の肩書をもち、いかにも野戦将軍という感じのいかつい顔と体格をした人で、講演も大声で聴衆を圧倒するような話しぶりであった。実は今回の会議のもう一つのハイライトは中国の国防相が初めて出席したことである。これまでは主要国が国防相を出しているのに、中国だけが少しランクの低い高官を出席させていた。過去3回は人民解放軍参謀副長(馬暁天)であった。これは、90年代初めIISSが台湾とのつながりを強くして反中的姿勢をとっていたことで、中国側の不信を買っていたからである。2002年に始まったこの会議の初期のころは中国は参加していなかった。
梁光烈国防相の講演の内容は、「中国の国防政策は平和と友好を追求するものであり、かつ徹底して防御的である」、「南シナ海は平穏で安定している」という調子で、冷戦時代のソ連と同様のプロパガンダを聞かされた。その後のセッションで、ベトナムやフィリピンの国防相は、「中国は口で言っていることと実際やっていることとで大きな差がある」と珍しく公開の場で中国を批判していた。その数日前に、中国の巡視船がベトナムの海底油田掘削のためのケーブルを切断するという行為に出ていたのである。
役割を果たした北澤防衛相
北澤防衛大臣は2番目に登場したが、30分の講演のうち20分ぐらいを東日本大震災への自衛隊による対処に関しての紹介に費やし、原発事故のような不測の事態に対する国際協力について協議することを提案した。しかし時間の関係で、肝心の日本の防衛政策に関する説明は薄いものになってしまった。日本の「動的防衛力」に関して簡単な紹介があったが、日本が北朝鮮や中国に対してどう対処しようとしているかの説明がなく、講演後に会場からこの点での質問を受けていた。中国に関する日本の対応に関しては「専守防衛政策をとっている」としたが、防衛大綱には「中国の軍事活動は懸念事項である」としているのだから、もっと踏み込んで中国への懸念を表明すべきだったのではなかったか。
シャングリラ・ダイアログの今後
中国はシャングリラ・ダイアログに参加するにあたって台湾の政府高官を招かないこと、台湾の民間人の参加には同意するが、「台湾」という名前を出さないことなどの条件をつけたといわれる。今回も台湾の参加者は「IISSの招待メンバー」の枠内に入っていた。ただ台湾の参加者は会議では発言をしていたし、なかには「台湾はアジアの公式の安全保障会議に公的立場を与えられるべきだ」と主張したものもおり、やや驚かされた。今後、台湾の地位に変化があるとは思えない。
シャングリラ・ダイアログは国防大臣が集まるということで名を上げたのであるが、昨年「アセアン拡大国防相会合」(アセアン10カ国以外に米中露日など8か国が加わる)が発足したため、相対的に重要性を低下させることになりそうである。しかし民間人を加えて活発な議論をするという側面は依然として重要で、ほかの枠組みには代えがたい。
このダイアログはボーイング、ロッキード・マーティン、タレスなど欧米の軍事企業が資金的に支援するのであるが、日本は防衛産業とは関係のない朝日新聞と三菱商事がスポンサーとなっている。地域の国際会議としての意義が大きいことを評価して、朝日も三菱商事もそして他の企業も、アジアの安全保障に関わり続けることを期待したい。