MENU
閉じる

人材育成 PARTNERSHIP

ホーム > 現役生の活動報告 > 【報告】2019年度ワシントンD.C.研修報告

【報告】2019年度ワシントンD.C.研修報告

 

第5期 奨学生:小林 周(日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究員)

1.研修の概要 
 2019年9月上旬、日米パートナーシップ・プログラム第5期奨学生はワシントンD.C.を訪問し、15名以上の有識者・政府関係者と意見交換を行った。トランプ政権下での米国の外交・安全保障政策、日米同盟、東アジア情勢などについて活発な意見交換が行われ、大変充実した研修となった。

2.意見交換の概要
 以下では、意見交換の中で印象に残った議論を紹介したい。

 まずは、中国に対する脅威認識の高まりである。トランプ政権発足から2年半以上が経過する中で、ワシントンD.C.では中国が既存の国際秩序に関与・同調することへの期待は消失したとする見方が大半であった。ただし、米中の二国間関係については、トランプ政権が好む緊張・緩和・緊張…というサイクルの中で、今後の展開に注目する必要があるという意見が聞かれた。
 米中対立や東アジア情勢の不透明性が深まる中で、日本(安倍政権)に対する米国の期待も高まっていると述べる者が多かったが、他方で日米の良好な関係を当然視するべきでないと指摘する有識者もいた。その理由として、日米関係が不透明な米中関係に規定されていること、米国内で高まる同盟コストへの疑問視、トランプ政権が支持率向上のために通商・防衛面で日本により大きな負担を迫る可能性などが挙げられた。

 北朝鮮問題については、米国内ではトランプ大統領の「個人外交(personal diplomacy)」のイシューとなっているため、政策の失敗を認めたり根本的な変更を行うことが難しい状況にあるという意見が聞かれた。また、韓国の文政権にとっては北朝鮮との和解が外交・内政両面で唯一の現状打開策となっており、宥和政策からの方向転換が難しいとみる者もいた。
 日米同盟や北朝鮮問題に関連して、日韓関係の冷却化に対する懸念が多く示された。北朝鮮が米中対立、米国の同盟軽視、日韓関係の冷却化から利益を得ているとして、日米韓の「デカップリング」によって利益を得るのは中国、ロシア、北朝鮮であることを認識すべきだという指摘もあった。

 最後に、「自由で開かれたインド太平洋」戦略・構想(FOIP)に関する認識のブレである。FOIPにおける地理的範囲や中国との向き合い方に関して、日米豪印各国の認識はかなり異なっている。今回の研修でも、「FOIPとはつまるところリバランス政策である」と述べる専門家がいた一方で、FOIPとは既存の同盟関係の強化「ではない」という意見や「アルフレッド・マハン的な海洋戦略である」という意見もあった。
 FOIPとは太平洋からインド洋にまたがる広範な地域における外交・安全保障・経済面での多次元的な多国間協力構想であることから、各有識者の専門や観点によって説明が異なるのは当然かもしれない。しかしながら、FOIPを主導する一国である米国・ワシントンD.C.の東アジア専門家の間ですら根本的な認識が異なっていることは、筆者にとって大きな驚きであった。この点について、ある有識者はむしろ認識の違いが多元性を生み、FOIPを成功に導くと楽観的であったのに対し、別の有識者は「みんなが違う地図を見ている」と表現して、将来的に同盟国間での齟齬を生む可能性を否定しなかった。また、FOIPのコンセプトは具体化されつつあるものの、この多国間合意をいかに運用するか(operationalize)という点については明確化されていないという率直な意見も聞かれた。

 筆者の専門は中東・北アフリカの現代政治やエネルギー動向だが、本研修は日米同盟や東アジア情勢に対する米国有識者の視点を学ぶだけでなく、グローバルな情勢に対する米国の政策を理解するうえでも大変有意義であった。東アジアにおける米国の(不)関与や米中対立が地域情勢に与える影響について意見交換しながら、中東における米国の撤退や関与低減と比較することで、より深い知見を得ることが可能となった。また、国際政治の中心であるワシントンD.C.で専門家と直接議論することの意義を痛感した。

3.感想・謝辞
 最後になるが、貴重な機会をご設定頂いたディレクターの土山先生と神谷先生に感謝申し上げたい。4日間の研修を通して、先生方には議論の内容についてご指導頂くだけでなく、現在の国際情勢への認識、米国留学時のご経験、現在の日本が抱える政策課題などについてじっくりとお話を伺うことができた。また、有意義な研修プログラムをつくりあげ、ご準備頂いた事務局の方々にも心よりお礼申し上げたい。